新日石・新日鉱HD統合--「巨人」誕生で石油業界は何が変わるのか?
新日本石油(以下、新日石)と新日鉱ホールディングス(以下、新日鉱HD)両社が経営統合を決めたのは、石油精製・販売事業の一段の先細りに対する強い危機感の表れにほかならない。
これまで石油元売り各社は、手を携えて物流面の合理化、効率化に取り組んできた。たとえば新日石は、出光興産と物流面で連携している。新日石の横浜・根岸製油所には「IDEMITSU」のマークのタンクローリーが、逆に新日石のローリーが東京湾対岸の出光興産の千葉製油所に並ぶ、といった光景が繰り広げられてきたのだ。
しかし、石油の需要減退が加速する現状では、従来の提携だけによるコスト削減だけでは、もはや限界に来ている。国内各社の設備過剰感も強まっており、今回の経営統合は元売り業界にとってはある意味、必然だったともいえる。
ガソリンの国内販売は2005年をピークに減少の一途にある。07年の原油処理量は約2億3200万キロリットルで、1日当たりの需要をはじき出すと400万バレル程度。これに対して、国内製油所の原油処理能力は日量約480万バレル程度。つまり、国内だけでも80万バレルの「供給過剰」の状態にあるわけだ。
新日石と新日鉱HDの経営統合では、08年12月の統合発表会見で「製油所の処理能力を日量40万バレル以上削減する」との計画を示していたが、102ページからのインタビューで明らかなように、「あと20万バレル程度上乗せが必要」と、両社のトップは口をそろえる。要するに今回の経営統合で60万バレル以上、製油所の処理能力を削減する意向だ。
しかし、両社が仮に60万バレルの削減に成功したとしても、国内全体で余剰状態が緩和されるとは考えにくい。景気低迷による国内新車販売台数の減少以外に、若者を中心とする自動車離れに伴うガソリンの販売不振、再生燃料への転換進展による石油離れなど、需要減退の背後に景気の浮沈とは関係のない構造上の需要減が横たわるからだ。
典型的な装置産業である石油元売り業界にとって、減産に伴う製油所の稼働率低下は利益減に直結してしまう。原油を安く調達できたとしても、石油製品の需要が回復しなければ、精製マージンの大幅な改善も見込めない。
うま味が乏しければ、代わって産油国が日本の製油所に手を差し伸べることもなさそうだ。油価下落で体力もすり減らしており、買収本格化といったシナリオは説得力を欠く。
新日石と新日鉱HDの経営統合を機に、ライバルの国内勢にも供給過剰解消を目指して他社と手を組む動きが広がってきそうだ。
その一方で、予想されるのが「非石油」事業拡大に向けて異業種と連携を探る動きだ。