広大な海の小さな船上で学んだこと できないことを認める大切さ

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・S.E.A.

現実はそう甘くはなかったのです。フィールドワークは、S.E.A. (Sea Education Association)による帆船の教育を目的としたものでした。10日間かけてメキシコ湾をグルグル周りながら、クルーの一員として、帆船での航海(帆の揚げ下げ、操縦の仕方、地図の見方など)を学んだり、海洋実験を行います。全長40メートル程度の小さな船に、生徒22人、教授1人、スタッフ3人、S.E.A.から船長1人、航海士3人、科学者3人の計33人が乗り込みました。

・日程

海での生活は陸での生活とはまったく違います。

陸では、朝起きて、昼は活動して、夜は寝るのが普通ですが、海の上ではそんなぜいたくはできません。法律によって、1時間おきにLogという記録をつけることが義務づけられており、夜中にサンプルを採取する必要もあるため、24時間誰かしらが起きていなければなりません。

そのため、乗組員は3つの“Watch”とよばれるグループに分かれて、ローテーションで仕事を行うことになります。Dawn watch (朝3~7時)、Morning watch (朝7時~昼1時)、Afternoon watch(昼1時~夜7時)、Night Watch(夜7時~夜11時)、 Midnight Watch (夜11時~朝3時)の5つのシフトを3つのwatchで回していく形になります。

また、つねに誰かが起きていなくてはいけない=つねに誰かは寝ているので、バンクベッド付近では静かにしなくてはいけません。そんなわけで、アラーム時計はもちろん禁止され、Watchの交代のときは、前の人が次の人のバンクベッドのところまで行って、返事があるまで名前を耳元でささやき続けて起こすという、非常に古典的な方法で目覚ましが行われました。

いざ出発!

・船酔い

出航したときは、潮風を楽しみつつ、写真なんかも喜んで撮ったりしていました。適度に海を楽しんだところで、バンクに戻って23時からのWatchに備えて眠ろうとしたのですが、出発15分後くらいから、寝ていると体が浮いてしまうくらい海が荒れ始めました。

始めは遊園地のアトラクションみたいで、「海ダー!!」とか言って楽しんでいたのですが、それが30分も続くとさすがに飽きるどころか、気分が悪くなります。

何というか、体内の水分がかき回されているような最悪の気分になり、デッキに上がって休むことにしました。

デッキに上がったときには、もうあまりの気持ちの悪さから動くことができなくなり、その場に座り込んでしまいました。

動くことができないまま、夜が来て、雨が降り始め、体の震えが止まらなくなり、寒いのであたたかい洋服を取りに行きたいのに、気分の悪さから動くことができず、

全身が疲労感に襲われているのに、気持ちの悪さから眠ることもできず、

食べ物だけでなく水さえ体が受け付けなくなり、糖分が足りないせいか徐々に頭の動きが鈍くなり、

それでもWatchのスケジュールがあるために、使い物にならなくてもデッキにいなければならず、

etc.etc…

間違いなく人生で最も肉体的精神的に追いつめられたひとつに入る3日間を過ごしました。水さえ体が受け付けない経験は初めてで、1日中何も飲めなかったときは、「ああこのまま死ぬんだな」と思い、短い人生をしみじみと振り返ったりしました。3日目にようやく水が普通に飲めたときには、自然と涙が出ました。

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