「MINI」は、なぜ日本で根強い人気を誇るのか 英国で誕生して60年、その歴史を探ってみた
日本に導入されたMINIは、さっそく評判になった。しかし一方で、日本ならではの交通事情や気候による対応も余儀なくされていた。
1つは、オートマチックの変速機への要望である。欧州では、今日もマニュアルシフトの変速機が使われている。運転をより容易にということで、アメリカ同様に日本のオートマチック比率は急速に高まっていた。しかし欧州車全般に、オートマチックへの対応は高級車を除いて遅れがちであった。
そもそも排気量850cc直列4気筒エンジンではじまったMINIは、その後、排気量の増大が行われたり、クーパーのような高性能化が行われたりしたが、マニュアルシフトを前提としていた。クラッチ操作を不要とするため若干の滑りをもたせたオートマチックでは、走行感覚に活気は出にくかった。
もう1つは、空調である。高温かつ湿度の高い日本で空調は不可欠だ。一方、欧州は緯度が北海道より北にあることに加え、空気が全般的に乾燥していることもあり、窓を開けて風を導き入れれば過ごせる気候だ。MINIも、そうした気候を前提に冷却性能が考えられていた。エンジン冷却のラジエターはもちろん装備するが、それはラジエターグリルの裏側にはなく、エンジンルームの側面に配置されていた。
そして横置きされたエンジンで回るファンで冷やす仕組みだったのである。したがってラジエターグリルから導入される風が直接当たらないため、オーバーヒート傾向になる。そこに空調の負担がかかるとなおさらだ。
それでも、日本の消費者にも根強い人気のあったMINIは、改良を重ね、日本市場における不具合を払拭していった。年月を経て海外での販売が下降線をたどるなか、逆に日本での人気は高まっていった。
「クルマらしいクルマ」の造形
人気の理由の1つは、やはり唯一無二の造形にある。そこはアレック・イシゴニスがこだわった点でもあった。「小さくても、クルマらしいクルマ」をイシゴニスは目指した。VWビートルやシトロエン2CVも、愛好家にとっては今なお懐かしさと共感を呼ぶが、独創的ではあっても奇抜な車種といえる。しかしMINIは、今なお多くの人が好ましいと思えるクルマの1台として残る。
MINIは、今日の軽自動車規格より小さな車体寸法だった。それでも粗略に扱われたりしないのは、寸法的な大小ではなく、その存在感ゆえであろう。その存在感をもたらしているのは、クルマらしいクルマとして設計・開発したイシゴニスの思想にある。
軽自動車の中にも今日では個性豊かな車種も出てきて、乗っていることが自慢になる例もあるが、MINIは60年前にすでにそうした価値を実現していた。開発者の思いがいかに大切であるかをうかがわせる。
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