日本企業が「非効率な面接」をやめられない事情 「安上がり」「前例踏襲」がもたらす思考停止

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そもそも面接官自身、いくつもの面接を突破してその会社に入社してきた人たちです。単純に面接には価値があると思っていますし、自分が通った選考方式を否定することは自分自身を否定することにもつながります。その価値観をひっくり返すことは難しいでしょう。

面接がなくならない理由

また、面接がなくならないのは、受ける側にも理由があります。面接を受ける人に「適性検査とES、どちらで落とされたら気分が悪いですか?」と尋ねると、多くの人は「適性検査で落ちるほうが、気分が悪い」と答えます。

質問に対して「当てはまる」「どちらかといえば当てはまる」「どちらかといえば当てはまらない」「当てはまらない」の4択から1つ選んで答える適性検査より、自分の言葉で書いたESのほうが「自分をちゃんと知ってもらえた気がする」と言うのです。

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どうやら人には「きちんと人の目を通して、自分という人間を判断してもらいたい」という願望、もっと露骨に言ってしまうなら「人に裁かれたい」という願望があるようです。そうした心理が「面接で判断してほしい」という欲求にもつながっているのでしょう。

同様に、面接をする側にも「人を裁きたい」という欲求があります。AI採用のほうが労力もかからず、妥当性も高いとわかっていても、自分の意思や直感を試してみたい欲求が捨てられない。

日本のAI採用が書類選考のみに使われ、いまだ面接は人の手で粛々と続けられているのも、そうした欲求が背景に存在するからかもしれません。採用する側、される側の双方に「裁きたい欲求」「裁かれたい欲求」がある限り、面接は今後もなくならないでしょう。

ましてアマゾンのように、面接を完全に排除するほどの割り切りができる企業は、そうそう出現してこないでしょう。

曽和 利光 人材研究所 社長

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そわ としみつ / Toshimitsu Sowa

株式会社人材研究所 代表取締役社長、組織人事コンサルタント

京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。現在、人々の可能性を開花させる場や組織を作るために、大企業から中小・ベンチャー企業まで幅広い顧客に対して諸事業を展開中。著書等:『知名度ゼロでも「この会社で働きたい」と思われる社長の採用ルール48』(東洋経済新報社、共著)など。

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