トランプ大統領が執務室の肖像画を変えた「謎」 なぜいつのまにかリンカーンになったのか

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このように、現段階でも民主党の攻勢は激しく、トランプ大統領が米朝会談出発前に「何も期待するな」と予防線を張っていたのは(これをとりあげた日本メディアはほとんどないようだが)状況次第で金正恩氏との協議を切り上げ、ひっ迫するこの国内情勢に対応しなければならいことを最初から想定していたと考えられる。

以前からこのコラムでは、トランプ大統領の真の敵は中国ではなく、国内の政敵であると一貫して主張しているが、経済ががたつき、トランプ大統領同様に国内に敵を抱える習近平主席も、トランプ大統領とは国益をかけて対峙する一方で、水面下では妥協も探っているはずである。

いずれにしても、このトランプ劇場がどう有権者に映るのか。共和党議員たちは日々情勢を分析しており、自分たちの地元で反トランプが明確にならない限り、彼らはトランプ大統領を裏切ることはない。ただし議員は世の中の風向きもチェックしており、2016年にトランプ大統領誕生の呼び水となったBrexit(英国のEU離脱)がどうなるか。あるいはトランプ大統領に近く、今同じような政敵に囲まれており、汚職疑惑で正念場を迎えているベンヤミン・ネタニヤフ首相の選挙なども、トランプブームが続くかどうかの見極めで重要なヒントになるはずだ。

なぜ執務室の肖像画はリンカーンに変わったのか

さてここからは、少し早いが、すでに始まった2020年の選挙戦の序盤の様相を解説しておく。まずトランプ大統領の動向で注目したのは、大統領執務室の机に向かって左奥の肖像画が、トーマス・ジェファーソン(第3代)からエイブラハム・リンカーン(第16代)に変わったことだ。

歴代の大統領は、国民へのメッセージを込め、自分の政策や好みにあった過去の大統領の肖像画を執務室のTV画面に映るところに掲げた。G・W・ブッシュ大統領はジョージ・ワシントン(初代)とリンカーンを飾り、彼を引き継いだバラク・オバマ大統領は、リンカーンだけを残し、いつのまにかワシントンは外してしまった。リンカーンとワシントンは常に歴代大統領の評価の1位2位だが、近年リンカーンが1位に定着した背景には、南北戦争で南軍だったバージニア出身で、自ら奴隷を持っていたワシントンよりも、奴隷を開放したリンカーンを評価する風潮が拡大したからだ。

その結果、毎年2月の第3月曜日にやってくる大統領記念日は、本来ワシントンの誕生日の2月22日を祝う目的で制定されたにもかかわらず、今では「リベラル州」の多くでリンカーンの誕生日の2月12日を祝う祝日に代えられてしまった。オバマ大統領がリンカーンを残した理由はそんなところだろうが、トランプ大統領は就任以来ずっとジャクソンを右の壁に掲げ、少し前からジェファーソンを反対側の壁に掲げるようになった。

ジェファーソンとアンドリュー・ジャクソン(第7代)はトランプ大統領の支持基盤の地域の英雄だ。コアな支持層には効果があったはずだが、米中貿易協議でワシントンを訪れた中国副首相を執務室に呼びつけた際の映像では、ジェファーソンがリンカーンに代わっていた。そして大統領記念日を挟み、2度目に中国副首相を執務室に呼びつけた最近の映像でも、リンカーンの肖像画はそのままだった。ならば、2020年に向けて、トランプ大統領は自分をリンカーンに重ねたのだろう。だが、南北戦争の南軍の地域を支持基盤に持つトランプ大統領が、北軍を代表したリンカーンを旗頭にするのはトランプ流の人を食った話である。

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