ドバイで増殖する「日本のパン屋さん」の正体 高級モールなどで9店舗を展開

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ヤマノテアトリエの成功についても、「ドバイは世界のショールーム。パン屋もたくさんありますが、それはメゾンカイザーなどのヨーロッパ系のものが中心でした。日本の柔らかくてしっとりした、フレッシュなパンは初めて。甘すぎずヘルシーなイメージや、セルフサービスで、トレーでパンを選ぶ日本式もウケている。向こうの人が欲しいのは世界のナンバーワンなので、日本製への信頼は高い」と喜んでいる。

「中東には石油や商社でこわもてのビジネスマンがいるイメージが強いですが、実は生活に密着した食やファッション、コスメなどの潜在需要は大きい」

世界で注目される日本スタイルのパン

ところで、ハムダ氏らが成功させた日本スタイルのパンは今、世界から注目されている。実際、ヤマノテアトリエの名は近隣国にもとどろいており、サウジアラビア西部に住む日本人女性は「この辺では、ドバイに行くとお土産に買ってくるというパン屋さん。日本より値段が張るが、お土産にもらうとすごく嬉しい」と話す。

日本ではおなじみの食パンも、海外ではそのパッケージも含めてめずらしい(写真:ヤマノテアトリエのインスタグラムより)

日本スタイルのパンは明治の初め、銀座木村屋の創業者、木村安兵衛氏が、失業武士である自身と家族の生き残りをかけ、未知の文化のパンを受け入れてもらうために試行錯誤して編み出したあんパンが出発点にある。中に具材を包む、という発想を中心にクリームパンやカレーパンなどのバリエーションが広がり、世界でも類を見ない多彩なパンが生まれている。独自に発達した食文化に、世界が魅了されているのだ。

考えてみれば、パンに限らず最近、世界でウケている日本の食には、折衷食文化が多い。ラーメンは中国料理が日本化したもの。アジアやアメリカなどに日本のラーメンチェーン店を出店し、訪日客もラーメンを楽しむ。日本化したカレーライスも最近、CoCo壱番屋がイギリスに進出し、大塚食品がインドに進出した。南蛮貿易時代にポルトガルから入り、独自に発達したてんぷら、明治以降の肉食文化が生んだしゃぶしゃぶを好む欧米人も多い。

グローバル時代で世界の交流が活発になり、経済発展を続けて多様な食文化を受け入れる国や都市が増える中、日本の折衷食文化は、もしかすると大きな可能性を秘めているのかもしれない。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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