「ロバート秋山」をテレビでやたら見かける理由 狂気と悪意による批評型「メタ芸」の魅力とは

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と、ここまで書いて、秋山竜次と初期のタモリとの間=この平成の30年間にも、強烈な「メタ」芸を体験したような気がして、記憶をたどってみると、こちらもフジテレビで放送された、ある超大物芸人によるお笑い番組が頭に浮かぶのだ。

――『ダウンタウンのごっつええ感じ』。

この、平成初頭の日曜夜に放送されたお笑い番組でのいくつかのコントにおける松本人志は明らかに、「ネタ」を超えた「メタ」の世界に足を踏み入れていた。

代表作を1つ挙げるとすれば、傑作コント「おかんとマー君」だ。当時、筆者のような関西出身者にとって、不良息子「マー君」(浜田雅功)を叱りつける「おかん」(松本人志)には、1970年代の関西の下町における母親像が、演技を超えて、完全に憑依している感じがしたものだ。

それ以外のコントでも、平成初期の、向かうところ敵なし、キレッキレの松本人志は、何度も「メタ芸」を見せていた。そのため、アイドル的な人気も得ながらも、独特なインテリジェンスをも担保することとなり、その結果として、(自称)知識層や見巧者(みごうしゃ)からの高い評価を獲得できたのである。

平成初期ダウンタウンの「メタ芸」のインパクト

さすがに最近の松本人志が「メタ芸」を見せることはないが、それでも「ダウンタウン王朝」が、平成30年間のお笑い界を制覇し続けた要因として、平成初頭における彼らの「メタ芸」インパクトからの残存効果も大きいと見る。

また、本来ならダウンタウンを超えるべき若手芸人の多くが、「ネタからベタへ」の流れに小さくまとまったことや、『はねるのトびら』や『ダウンタウンのごっつええ感じ』のような、極端なネタが披露できる番組が減ったことも、「ダウンタウン王朝」の永続化に寄与したと思う。

そんな中、時代に逆行する「メタ芸」を、孤立無援の中で追求することで人気を獲得した秋山竜次は、かなりのレアケースと言えるだろう。しかし、この時代環境の中では、秋山が「ダウンタウン王朝」に取って代わる大勢力にはなりにくいとも思う。

それでいいような気がするし、秋山竜次もそこまでは望んでいないはずだ。あちこちのCMで変顔をしながら、少しずつ異物感を振りまき、我々をクスっとさせ、一方『クリエイターズ・ファイル』では、「狂気」と「悪意」を詰め込んだキャラクターを、思いっきり演じ続けてくれれば、ファンとしてはそれで満足ではないか。

そしていつか、筆者のような評論家やライターのいかがわしさを誇張する「メタ芸」を見せてくれれば――。

スージー鈴木 評論家

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すーじー すずき / Suzie Suzuki

音楽評論家・野球評論家。歌謡曲からテレビドラマ、映画や野球など数多くのコンテンツをカバーする。著書に『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト・プレス)、『1979年の歌謡曲』『【F】を3本の弦で弾くギター超カンタン奏法』(ともに彩流社)。連載は『週刊ベースボール』「水道橋博士のメルマ旬報」「Re:minder」、東京スポーツなど。

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