「吉野家」と「すき家」、明暗分けた戦略の違い 業績を左右したのは値上げだけではなかった

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2016年から自社の公式アプリで、2018年3月にはニュースアプリで店員に見せて利用するクーポンの配布を開始。2018年9月から10月にかけて、吉野家、はなまるうどん、ガストによる割引券「3社合同定期券」も実施した。ただ、商品の魅力をアップするよりも、割引に依存したこうした施策は想定していたほどの売上高の増加にはつながらず、逆に現場の負担を増加させる要因になっている。

致命的な失敗はないが、1つひとつの小さな誤算が積み重なって現状の苦戦を招いたと言える。

吉野家は採算を改善するための施策も打っている。昨年11月から関東地方で実験的に、牛丼(並盛)にサラダとみそ汁がつくセットメニューの「500円ランチ」を販売。今年1月には「牛皿定食」を発売。牛丼の具と米飯を分け、卵とみそ汁をつけて、こちらも500円で提供している。ただ、どちらも既存の商品を新しい見せ方でアピールしただけに過ぎず、顧客にどこまで支持されるかは不透明だ。

「松屋」は毎月季節限定商品を投入

すき家と吉野家に次ぐ3番手の牛丼チェーン「松屋」も、2018年4月に「牛めし」や定食などを10~50円値上げした。地域需要に合わせた戦術も巧みだ。主に関東地方ではチルド肉を使った「プレミアム牛めし(並盛)」を380円で販売する一方で、それ以外の地域では冷凍肉を使った「牛めし(同)」を320円で展開している。「豚と茄子の辛味噌炒め定食」や「ビーフハンバーグステーキ定食」といった季節ごとの限定商品も、月に1度のペースで投入している。

松屋は毎月、季節ごとの限定商品を投入している(記者撮影)

これらの結果、松屋の既存店売上高(2018年4月~2019年1月)は前年同期比1.8%増と、こちらも会社計画を上回って推移している。

年間1000社超の上場企業をリサーチしている分析広報研究所の小島一郎チーフアナリストは、「吉野家はかつて業界のチャンピオン企業だった。もはや今は違うのに、経営陣はそのときの意識のままでいるのではないか。商品戦略などでチャレンジが足りない」と指摘する。

人手不足問題が深刻さを増し、今年は消費増税も控えている。各牛丼チェーンの戦略の行方を注視する必要がある。

佐々木 亮祐 東洋経済 記者

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ささき りょうすけ / Ryosuke Sasaki

1995年埼玉県生まれ。埼玉県立大宮高校、慶応義塾大学経済学部卒業。卒業論文ではふるさと納税を研究。2018年に入社、外食業界の担当や『会社四季報』編集部、『業界地図』編集部を経て、現在は半導体や電機担当。庶民派の記者を志す。趣味は野球とスピッツ鑑賞。社内の野球部ではキャッチャーを守る。Twitter:@TK_rsasaki

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