人口9600人「地球上で最も幸福な町」のリアル フィンランドの小さな町に何があるのか

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フィンランドはほかにも、国民の負担が少ない国民皆保険制度が整備され、大学の学費は無料、低価格な子育て支援もある。子どもたちが通う学校では試験は滅多になく、教師が監視されることもほとんどない。それでも教育水準は、近年は順位をやや落としながらも、世界トップレベルだ。

低価格の子育て支援も充実している(写真:Lena Mucha/The New York Times)

充実した公的サービスと引き換えに、税金はアメリカの水準よりも高い。例えば年収4万5000ドルの人の場合、フィンランド国民はアメリカの一部の州民の倍以上の税金を払うこともある。

しかし、カウニアイネンの住民たちは、その恩恵は分け与えられていると感じている。格差が小さく、機会は多く与えられ、強い連帯感があるのだ。「私にとって幸福とは、生活と人生の可能性に満足していること」と、元町議会議長のフィン・ベルグは言う。「その考え方からすると、ここは幸せな場所。たくさんの可能性に恵まれているからだ」。

高所得者の割合は国の平均の倍以上

町の経済的な豊かさも一役買っている。町長のマサルによれば、カウニアイネンの低所得者の割合はフィンランドのほかの自治体と同水準だが、高所得者の割合は国の平均の倍近いという。

また、カウニアイネンの町税はわずかな差ながら国内で最も低いため、移住希望者を引きつけている。そしてそれが、すべての住民にも恩恵をもたらしている。

富裕層にとってはほかの自治体よりカウニアイネンのほうが税金を少なく収められることになるので、結果的には富裕層のおかげで町の税収が増えている。その結果、国内の平均的な自治体よりも、住民1人当たりに費やす文化活動費が約4倍、スポーツに費やす額は3倍、子育て支援は5割も多い。

これらすべてが基本的な幸福の要因になっていると、元町議会議長のベルグは指摘する。「幸福とは何かをずっと考えているが、幸福とは自分の人生に満足していることで、惨めではないことだ」とベルグ。「そして、私は惨めではない」。

© 2019 The New York Times News Services

(執筆:Patrick Kingsley、翻訳:中丸碧)

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