コマツが装甲車輌から引かざるを得ない理由 防衛装備庁、陸幕ともに認識は甘かった

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「装輪装甲車(改)」および軽装甲機動車の改良型の不採用が重なり、今後コマツは装甲車輌の生産ラインの維持ができなくなった。なお陸自は軽装甲機動車と高機動車を統合した後継車種の調達を計画している。これにコマツは応じる気はなく、三菱重工や自動車メーカーなどが興味を示している。

今後、コマツが唯一生産を続けるのはNBC偵察車のみである。NBC偵察車はこれまで20輌ほどが調達されたが、これも実は防弾性能に問題があり、また高額である。調達されるのは最大でも30輌程度、実際には20輌も調達されないだろう。これまで平均年に2~3輌が調達されており、このペースであればこれまでの規模のラインは当然維持できず、工芸レベル、町工場レベルの生産となる。これではこれまでの生産ラインを維持できない。

コマツの装甲車の開発能力は高くない。それはひとりコマツのみならず、防衛省、陸上自衛隊の側の当事者意識および能力の欠如が原因である。

例えば軽装甲機動車の防弾能力は紛争地でゲリラなどが多用するライフルで使用される、7.62×39ミリカラシニコフ弾に耐えられればよいとされており、より強力な7.62×51ミリNATO弾および7.62×54ミリロシアン弾には耐えられない。

これはNATO規格のレベル1の防御力すら満たしていないことを意味する。しかも被弾時に装甲内面が剥離して乗員を傷つけるのを防ぐスポールライナーは経費がかかると省略された。当初左右のドアのガラスも防弾ガラスではなく、車内の騒音もひどい。しかも不整地走行能力が低く、軍用装甲車のレベルにない。技術のレベルとしては1970年代の装甲車である。

率直に言って、トルコやUAE(アラブ首長国連邦)など途上国の装甲車よりも技術的に相当遅れている。

そもそも4人乗りの小型装甲車をAPC(主力兵員輸送車)としているような軍隊は世界にはない。8人の分隊が2つに分かれる上に、固有の無線機も機銃も装備していないので分隊長が分隊をまともに把握・指揮できない。下車戦闘の場合は乗員も全員が下車戦闘するので、車輌の機動および、火力支援が得られない。陸幕は発注側としてまともな運用構想も要求仕様も書けなかった。発注の能力が低ければメーカーの能力も相応に低くなるのが当然だろう。

弾薬は発注数が半減する

弾薬ビジネスも安泰ではない。先に発表された来年度からの防衛大綱は現大綱を引き継ぎ、「戦車及び火砲の現状(平成30年度末定数)の規模はそれぞれ約600両、約500両/門であるが、将来の規模はそれぞれ約300両、約300両/門とする」としている。

つまり、コマツの弾薬は将来的に単純計算で売り上げが半減することが予想される。またコマツは榴弾砲などの精密誘導砲弾の研究を行っていたが、これを中止した。

現在、陸上自衛隊は榴弾砲、迫撃砲に精密誘導砲弾を導入していないが、将来これらを導入することになるだろう。人民解放軍や途上国ですら導入しているからだ。そうなれば当然、精密誘導砲弾は輸入品になる。しかもこれらは通常砲弾の数倍の値段なので、国内の通常弾薬の調達予算はさらに減ることになり、当然コマツの弾薬ビジネスの売り上げは減少するだろう。そうなれば弾薬の製造ラインの維持は極めて困難だ。

近年、財務省は国内の弾薬メーカーの数が多すぎることによる調達コストの高さを批判しており、弾薬メーカーの再編を提案している。これらのことからコマツは近い将来、防衛産業から完全に撤退する可能性が高いと筆者は考えている。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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