エスカレーターを歩く人にも「言い分」はある 定着したものをやめるのは容易ではない
日本では1970年の大阪万博を機に阪急電鉄が梅田駅で呼び掛けたのが始まりで1990年頃には東京でも定着し、前後して全国に広がった。当時は国際化社会にふさわしい新マナーとマスコミが好意的に紹介するだけでなく積極的に呼び掛けて推進する鉄道会社もあったようだ。東京の右空けに対し関西の左空けというのが有名な特徴で、定着に長い年月を要したからこそ、その浸透は大きかったと言える。
ニュースにならないような軽微の事故まで含めたら転倒や転落は全国各地で毎年数十件、場所によっては100件以上起きている。
それでも完全に禁止しよう、やめようという機運が高まらないのは、長年の習慣であると同時に、「危ないと言いつつ実は大丈夫なんだろう」――歩く側も立つ側もエスカレーターそのものに対してはもちろん、周囲の施設ひいては社会への絶大なる安心感の上にすっかり胡坐(あぐら)をかいてしまっていること、どちらが正しい云々以前に自分一人が反対側に立ち止まることで奇異の目で見られたり後ろから歩いてきた人にとがめられることを恐れる大きな同調圧力が要因になっているように思えてならない。
中国のエスカレーターは超高速
今から十数年前、上海に引っ越した翌週、在留許可申請のため最寄り駅のエスカレーターに乗ろうとしてそのあまりの速さに一瞬ひるんだ。こりゃ大変な国に来たものだと大げさではなく身が引き締まる思いをした瞬間をはっきり覚えている。
スピードが速いだけでなく故障も多い。最初から修理中と書いてあるならまだいい。乗っていたエスカレーターがいきなり止まるぐらいかわいいものだということは徐々にわかってくる。
湖北省のショッピングセンターでエスカレーターの床が突然抜け落ち母子が転落、子どもを救い上げた母親が亡くなった事件は日本でも報道されたが、上海や北京の地下鉄駅ではエスカレーターが突然逆走してケガ人だけでなく死者も出ている。マンションやホテルのエレベーターが上階から一気に落下、あるいは停止階で乗降中に急上昇し挟まれた人が亡くなる事故もあった。
信用できないのはエスカレーターやエレベーターだけではない。マナーどころかルールもろくに守らない自家用車やバスが猛スピードで縦横無尽に行き交う道路をバイクや自転車、人や犬が縫うように渡り、ひったくりやスリのような不届き者だけでなく自分さえよければの精神が集団で闊歩している。
とにかく家を一歩出たら(家にいたらいたで断水や停電のようなことも結構な頻度で起きるのだが)いつ何が起きてもおかしくないと何となくわきまえている。だから本当に驚くのは事故や事件そのものより居合わせた人々の態度だ。最初こそ人だかりができてワイワイするがすぐに三々五々散っていく。
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