【林文子氏・講演】本当に心が満たされる仕事のやりがいとは何か(その8)

東洋経済新報社主催フォーラム「Employee Engagement Forum 2008」より
講師:林文子
2008年10月2日 ダイヤモンドホール(東京)

その7より続き)

●報告・連絡・相談をするのは社長の方、感謝の気持ちで向き合うことが必要です

 話は戻りますが、フォルクスワーゲン東京に私が入社したとき、会社は既に創業31周年でした。業界のカリスマと言われた会長が裸一貫で興した会社ですが、すごく強烈なトップダウンでした。経営が順調であれば、そういうマネジメントスタイルで結構なのですが、この状態では全然現場が持ち上がってこないのです。一番の問題点はなぜお客さんが買わないかということです。その理由を一番よく分かっているのは、現場で毎日お客さんに向き合っている人たちです。そこからの声が無いということは、もう様子が全然分からないわけです。この会社の体質を変えるのは、大変な思いをいたしました。
 しかし、着々と体制を整え、まず働く環境を良くしました。本社に掛け合い先行投資させてもらって、ショールームを改装しました。それから営業時間を短縮しました。残業も削減するようにし、休まない店長には「あなたイエローカードですよ。今月休まなきゃとんでもない」と電話をしました。ともかく休まないことが一生懸命働く価値のようにされていた会社ですから、ワークライフバランスを整えるなんていう意識がない。一生懸命会社に行くことが、忠誠心みたいな感じでした。そうではなく「お客様にフォルクスワーゲンという夢のある商品を届けるのに、家族との時間が持てない生活では、お客様の気持ちが分からないじゃないですか」と社長が説得して歩くという始末です。

●経営者の立ち居振る舞い

 実は、フォルクスワーゲン東京はもともとファーレン東京という会社名でした。それは分かりづらいということで、本社に社名変更をお願いをして、成績が良かったらという条件を提示されていました。そして2年ぐらい経ったときに劇的な業績回復をしたので、フォルクスワーゲン東京と名称変更をさせていただいたという経緯がありました。そのお祝いのパーティーを、ウェスティンホテルでやりました。私はIDカードとともにモンブランのボールペン1本1本にお名前を金文字で刻んで、「Our Engine Just Started」……私たちのエンジンは今スタートするよという文字を箱に入れて従業員の方に渡しました。そして表彰式の後にパーティーが始まったそのときです。いつもおとなしい人たちが、ウワーっと大騒ぎしているのです。私がテーブルを回ると、「社長」と手を出す。ハイタッチしろと言うのです。「社長、IDカード見て」「ああ、いい男で写っている」「格好いいでしょう」と、ツンツン頭のメカニックが沸き立つようにしているのです。
 そしてお開きの時間に出口で「皆さん、ありがとうね」と挨拶しようと思って待っていても、出てこないのです。みんな喜んでしまって。やっと出てきたら、みんなが手を握り締めて、「社長、ありがとう」と言いました。辛抱強くコミュニケーションを続けて、一人一人の社員に向き合った答えがこうして二年経って出たのです。頑張ってホウレンソウ……報告・連絡・相談をするのは社長の方なのだと。「私はどうやって生きてきたか。今、何がしたいか。いちばん大事なのは皆さんだ。会社にとっても私にとってもあなたが大事。あなたと出会えてありがとう。あなたが元気に働いてくれたから、私も社長として今月元気でいられました」と、こういう気持ちを率直に伝えることと、その感謝の気持ちで向き合うことが必要です。

 私たちが忘れてはいけないのは、組織の中でこれだけ人間が成長するということ。しかし、それは本当に人と人とが本気で向き合ったときに花開くということです。本当に向き合うということ、もっと深く人の関係を作っていくこと。経営者の立ち居振る舞いの中でご自身がミドルの方に向き合ってくだされば、それが伝播していきます。メンタルヘルスということに企業は大変悩んでいて、産業医やカウンセリングの人を会社の中に入れているけれども、まず私たちとご一緒にやっているミドルのマネージャーの人に、こういうマインドを徹底的に伝えると、職場の隅々にそういう方が増えていきます。そうすれば、皆さんの気持ちがもっと健康になるのではないかと思います。
(終)
林文子(はやし・ふみこ)
現・東京日産自動車販売会社・代表取締役社長。
東洋レーヨン、HONDAの営業経験などを経て、BMW東京株式会社の新宿支店長、中央支店長に就任。その後フォルクスワーゲン東京代表取締役社長、BMW東京の代表取締役社長、ダイエー会長のキャリアを経て現職に至る。
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