若桜鉄道の社長はなぜ「船会社」に転職したか 秘策は「忍者高速船」を使ったキャンペーン

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―― 車両のコンセプト・デザインを水戸岡鋭治さんに依頼して、若桜鉄道観光列車「昭和」運行への道筋をつけたところで社長を辞任されましたが、さらに将来に向けたプランがあったのではないですか。

私は、藪を切り開いて獣道(けものみち)をつくる役割の人間だと思っている。その道を広げ、舗装して歩きやすくする役割は、それに適した別の人がいる。やることはやったという実感があるので、(辞任は)いいタイミングだった。

既にあるものをつくり直すには、一度壊して立て直さなければならない。それには血も流れるし、恨みも買う。前にあるのがどんな壁なのか、わからずにぶつかってきた。穴を開けるのか、横から回るのか、肩車して乗り越えるのか……。ともかく、向こう側に行くために、できることをやった。やりたいことがあって社長になったわけで、大変なことも多かったものの、それを実現することができたので楽しかった。

地域の人が楽しんでこそ

―― 若桜鉄道と津エアポートラインとの違いは?

鉄道と船との最も大きな違いは、鉄道の大半は建設費であるということ。どこの鉄道会社も実際の運行業務に関わっている社員は3割ぐらいではないか。ほかには、保線、沿線の法面や構造物の維持・補修、架線などの電気系統……と、建設・土木などの担当。これは、鉄道がインフラを自分たちで持って、維持していかなければならないから。その点、船会社は港を建設・維持する必要はない。レールも不要。船を持って運行すればいいのが、経営上、根本的に異なる点だ。

忍者高速船と山田和昭さん(写真:津エアポートライン)

地域的には、若桜鉄道では若桜町と八頭(やづ)町という地域だけを見て観光をゼロから立ち上げていく動きだった。津エアポートラインでは、まず津市民・三重県民の利便性を向上させること。そして、三重は観光先進地で事業者も人材も豊富なので、その資源を繋げて観光客を惹きつける物語を創り、世界の玄関口である中部国際空港と繋げ、地域と航路を発展させていく動きになる。

これまでそれぞれ点で活動していたものを線で結び、多様な魅力を持った面的な広がりをもたせれば、観光圏として輝きが増す。

「忍者」はアクションや忍術だけでなく、武術・精神性・ガジェット・食・健康・文化・インテリジェンスと幅広い世界があり、テーマを絞ったことで目標が具体的になり、アイデアが出やすく、それが形として見えやすくなる。津港にさりげなく掛けられている「水蜘蛛」という水面を渡る忍者の道具や、水中に忍者が潜んでいることを匂わせる竹筒といった小道具も、ひょんな思いつきから生まれている。

旅行者を楽しませることも当然だが、観光業が盛り上がり、迎え入れる地域の人が楽しくなってくることが大事だ。津エアポートラインも公共交通として、地域の一翼を担いつつ、乗船客を伸ばしていくつもりだ。

柳澤 美樹子 りゅう文章工房代表

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やなぎさわ みきこ / Mikiko Yanagisawa

「旅・食・人」をテーマとした、著述・編集業。まちづくりや交通、伝統食、神社などに関心が深い。健康・医療を中心に、インタビューなども手がける。信州、金沢、伊勢・志摩をはじめとした地域ガイド、鉄道や生活文化などを取材・執筆。著書に『鉄道廃線跡を歩く』シリーズ、『達人に学ぶ鉄道資料整理術』など。

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