岩田 聡 任天堂社長
タッチペンで遊ぶ携帯ゲーム機「ニンテンドーDS」の大ヒットにより、再びゲーム業界の主役になった任天堂。DSの仕掛け人でもある岩田社長が語る次の一手とは?(『週刊東洋経済』5月19日号より)
パラダイムシフトがゲーム業界で起きている
1:DS効果により、任天堂の2006年度の業績は売上高、利益ともに、過去最高を大きく更新しました。
前期の好業績は、私たちのチャレンジが実ったものと言える。DSは何とかして消費者のゲーム離れを食い止めたいという思いから世に送り出した商品(発売は04年末)で、任天堂にとって大きなチャレンジだった。いろいろな幸運も重なったおかげで、ユーザー層が女性や年配の方にも広がり、目標としていたゲーム人口の拡大が実現できた。
2:DSは国内では人気ですが、海外市場での反応はどうなんですか。
日本に続き、昨年は欧州でもDSの普及が一挙に広まった。犬を飼って遊ぶ「ニンテンドッグス」や「欧州版・脳トレ」などのソフトが売れており、日本と同様に幅広い層から支持を得ている。米国はDS本体の販売台数は着実に伸びているが、ユーザー層の広がりという点ではまだまだ。今年は米国でもゲーム人口を増やしたい。
3:国内の普及台数は今年3月末で1600万台を超えました。どこまで行けるとみていますか。
それは私たちの努力次第だと思う。DSは従来のゲームの定義を大きく広げ、新しいユーザーを取り込んできた。チャレンジは成功したが、後は楽をしようなんて考えたら、お客さんはどんどん離れていく。単なるゲーム機ではなく、いろいろな分野、生活場面でDSを使ってもらえるような新しい提案をしていきたい。それができたら1人1台への流れができ、ゲーム機の限界普及台数の壁を打ち破るチャンスも出てくる。
4:昨年末に発売した据置型ゲーム機「Wii」の手応えは?
初年度はほぼ目標どおりの600万台を出荷し、今年度は倍以上の1400万台を計画している。人気は予想以上で、今も世界的に供給が追いつかない状態。海外でも好調で、特に米国でのWiiに対する熱は日本以上。誰もが簡単に楽しめるWiiの特性が、米国のパーティ文化とマッチするようだ。
5:DSやWiiのヒットは、何を意味しているのでしょうか。
つい最近まで、ゲームは子供と若い男性が楽しむものだと思われてきた。女性、ましてや、お年寄りがゲーム機に触るなんて誰も想像しなかったし、脳を鍛えたり、英語の勉強がゲームソフトになりうると思っていた人もいなかったはず。
しかし、DSやWiiによって、そうしたゲーム業界の長年の常識は次々に崩れ始めている。今、起きている現象は、ゲーム業界における歴史的なパラダイムシフトと表現してもいいのではないだろうか。
(書き手:渡辺清治 撮影:梅谷秀司)
いわた・さとる
1982年、東京工業大学卒業、ゲームソフト開発のハル研究所へ入社。任天堂の創業者、山内溥氏にスカウトされ、2000年に任天堂へ入社。取締役経営企画室長を経て、02年に42歳の若さで社長に就任した。
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