「観光の目玉」SLを手放す真岡鉄道の葛藤 2台体制に終止符、「地域の誇り」もコスト重荷
加えて、真岡鉄道の竹村氏が「将来SLの運転をしたいという目標を持って入社を希望する若い人も多くいた」と言うように、人員確保という点でもSLの存在感は大きかったようだ。
まさに沿線や地域に有形無形のさまざまな影響を与えてきたSLだが、一方では「維持コストが沿線にとって大きな負担となっていた」(小林氏)のは事実だ。
ある沿線住民は次のように話す。
「SLの音が聞こえてくると週末だなあと思って、やっぱり地域の自慢ですよ。乗ったこともあるし思い出も多い。でもね……すごい税金使って2台も持っておく必要はあるのかな。こだわりすぎて結果的に真岡鉄道が廃止になるほうがまずいんじゃないか」
では、これからC11形蒸気機関車はどうなるのか。現在、C11形は真岡市が保有して運行協議会に運行を委託している(実際の運行業務は真岡鉄道)。今後は運行協議会に譲渡されたうえで、さらなる譲渡先を探すことになる。
新聞報道などによれば複数の自治体・企業が名乗りを挙げているようだ。基本的には「動態保存してくれるところに譲渡したい」(小林氏)という意向。具体的に決まっていることはないが、譲渡先次第では真岡鉄道に運行を委託してこれまで通り走り続ける可能性もゼロではないという。
そしてSLの通年運行というひとつの“目玉”を失った真岡鉄道や沿線では、別の魅力を創出していくという新たな課題がのしかかる。
地域の魅力をいかに生み出すか
「SLが走っているというのは確かに目玉になりますが、それだけではなかなかたくさんの人を呼ぶのは難しい。今まではSLに頼ってきて、新たな魅力を作り出すことをあまりしてこなかったのかもしれません。益子陶器市にしても、多くの人はクルマで来る。真岡鉄道のこれからのためにも、住民の方々も巻き込んで新しい沿線の魅力づくりをしなければ」(小林氏)
多くの人を集め、沿線の活性化には確かにSLの運行は効果的だ。しかし、一方で真岡鉄道のように「コスト」はローカル事業者にとっては大きな課題。観光客を増やして一時的なにぎわいを得る裏側で、SLの維持コストが経営の首を絞めることになっては本末転倒だ。
幸いにして、真岡鉄道は“2台のうち1台を手放す”だけ。これからもC12形を用いた「SLもおか」の運行は続けられる。そのうちに、いかにして新たな地域の魅力を発信して真岡鉄道にSLだけでない売りを見いだすか。それは、真岡鉄道だけでなく地域全体に課せられたテーマだろう。
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