福島原発汚染水、漏えいタンクに違法労働の影 廃炉現場における違法な雇用実態
さらに、上地氏は、東建興業による不法な派遣を隠すため、テックからは自社を雇用主とし、危険手当も受け取っているとするよう指示された、と話す。
「うちの下請け会社はみんなテックで通しているわけ。会社名は偽造だといえば偽造だ」。同氏が今年8月に録音したテープには、テックの担当者という人物のこんな言葉が残っている。
テック側は「当社の従業員に対し、大成建設に虚偽の報告をするよう指示した事実はない」と否定。上地氏の雇用は認めたものの、具体的な雇用内容などにはコメントしていない。東建興業は福島に原発作業員を派遣したことは認めている。
一方、東電は、上地氏が告発した具体的な点についてのコメントは控えており、大成建設は、下請け会社に適切な指示をし、下請け会社のネットワークをしっかり監視していると説明している。
これに先立つ今年1月、福島を離れ沖縄に戻っていた上地氏は、テックの小川容会長の訪問を受け、100万円の現金を手渡されたという。上地氏が福島第一原発での労働実態について規制当局に苦情をあげ、マスコミに自分の経験を説明し始めた頃だった。
この現金について、上地氏は「未払い分の賃金と慰謝料だ」と言われたと説明。これに対し、テック側は「未払賃料、慰謝料と説明した事実はない」としているものの、支払いの目的は明確にしていない。
工事の管理は二の次
貯蔵タンクの作業現場では、違法な雇用慣行が公然とまかり通る一方、品質管理への配慮はしばしば後回しにされていた。上地氏によると、作業員たちはタンクの欠陥について上層部に注意を促せる状況にはなかったし、しかるべき作業訓練を受ける機会も与えられなかった。
雨の日も雪の日も、作業員の重要な仕事の一つとして、タンクの隙間を目地材などで埋めるコーキング作業に駆り出された。しかし、そうした天候では「コーキング剤は流れ出て、金属に接着しなかった。全く意味がなかった」と上地氏は語る。東電は、ロイターの取材に対し、この指摘には具体的にはコメントせず、雨天でのコーキング作業は通常は行わないとの説明をしている。
福島に送り込まれた沖縄の作業員たちは、大手企業の社員のように明確な雇用契約に守られることなく、常に解雇の脅威にさらされていた。そうした環境では、たとえ作業内容に疑問を持っても意見を主張することはできなかった、と彼らは言う。
汚染水漏れが起きたある貯蔵タンク周辺の放射線量は、8月に汚染水流出が起きてから数週間で、防護服を着ていない作業員ならば数時間で放射線病にかかるレベルまで急上昇した。
「我々の仕事は、たしかにずさんで質も低かった。しかし、どうすれば良かったのか。急いでタンク設置を終わらせなければならなかった」。沖縄から来た上地氏の仲間の一人は、仕事の内容よりもスピードが最優先された当時の状況をこう振り返る。
労働者保護が廃炉成功の条件
福島第1の廃炉や周辺の除染労働の実態に改善を求める声が高まる中、東電は11月、下請け会社の監督を強化し、何千人もの作業員に支払われる給与を倍増すると表明した。
同社はロイターの電話取材に対し、作業員の労働条件の改善が「事故収束につながる重要な課題である」と回答。「元請け各社などと協力し法令順守に取り組む」との姿勢を示した。
同原発の作業員に関する労働案件を多く扱ってきた弁護士の水口洋介氏は、廃炉・除染作業での労働問題は原発事故の収束自体を阻むことになりかねないと警告、抜本的な解決策をとるべきと訴える。
同弁護士は、多くの若い作業員が賃金をピンハネされたり、事前に説明を受けずに危険に直面して、現場を去る姿は数多いと指摘、「労働者の保護が強化されないことには、廃炉作業が成功するわけがない」と強調している。
(Antoni Slodkowski 編集:北松克朗、石黒里絵)
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