30歳「一見普通な僕」の誰にも言えない過去 父になる彼が学生時代に溺れた脱法ハーブ

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その後、転職活動をしようとするが、なかなかうまくいかない。浩二さんは普通の安定した生活を求めていた。その頃から現在の妻と同棲を開始。再就職をせず家でダラダラとゲームをしている浩二さんの姿を見かねた妻が、ゲームのコントローラーを隠したこともあった。そして、ようやく現在の会社に正社員で就職。現在5年目だ。

「今、月の手取りは21万円です。年収にすると450万円。ただ、最近改めて給与明細を見たら、この年齢でこの年収は少ないのではないかと思えてきたんです。多くの営業職の人たちって、成績に応じて昇給しますよね。

先日、40代の上司が昇格したんです。それで月給も上がるのかと思って聞いてみたら、なんと15円しか上がらなかったそうなんです。そうすると、自分の今後の昇給額も予想できてしまって……」

春には父になるが、不安も大きい

浩二さんは2年前に結婚。結婚式は身内だけで挙げた。現在、生活費はフリーライターとして働く妻と折半しており、「夫婦の財布」はない。結婚しても特にお金に関して変わったことはないという。

「あまり欲しいものとかもないんですよね。車も欲しいと思わないし。家賃は月9万5000円で、妻と折半しているし、カツカツな生活なわけでもないです。レコードが好きなので、レコードやほかに好きなものを買うにしても月2万~3万円くらい。毎月貯金も4万円しています。今の貯金額は350万円くらいです」

将来の養育費には不安も大きい(筆者撮影)

現在妻は妊娠7カ月。フリーランスは産休や育休がないので、妻が働けない間、浩二さんが家計を負担することになる。何げなく、「お子さん生まれるの、楽しみですね」と言ってしまったが、浩二さんはこう返してきた。

「多分、男の人って初めての子どもが生まれるぞって段階のとき、ほぼ戸惑いしかないと思うんです。楽しみでしょうがないと思う人って、すごくポジティブな人か、めっちゃアホじゃないかなと。この給料で不安にならない人のほうが少ないのでは……。この世の中、子どもを育てるのに相当なお金がかかるのは目に見えています。アホじゃないと楽しめないですよ」

スーツ姿の浩二さんは一見すると、普通のサラリーマンにしか見えない。脱法ハーブに溺れていた過去があるとは誰も思わないだろう。「そう言えば」と浩二さんは続ける。

「先日、学生時代の友達と久しぶりに飲んだんです。当時、脱法ハーブを楽しんでいたことを包み隠さず話したら、けっこうみんな引いちゃってましたね」

以前、精神科の看護師を取材したことがあったが、数年前までいちばん多かったのが脱法ハーブの依存症患者だったという。幸い、浩二さんは発作や中毒を起こしたり、人に危害を加えたりといった事件は起こしていない。「やめられて本当に良かったですね」と私は彼に告げた。

「普通」に見える人でも過去には過ちがあったり、不安を抱えているのだと思えるインタビューだった。

姫野 桂 フリーライター

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ひめの けい / Kei Himeno

1987年生まれ。宮崎市出身。日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをしつつヴィジュアル系バンドの追っかけに明け暮れる。現在は週刊誌やWebなどで執筆中。専門は性、社会問題、生きづらさ。猫が好きすぎて愛玩動物飼養管理士2級を取得。趣味はサウナ。

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