吉野家、ぬぐい切れぬ「9年ぶり赤字転落」懸念 人件費増、既存店不振のダブルパンチが直撃

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店舗を改装すると、その期間の売り上げロスも大きいため、改装は相当な利益圧迫要因となる。だが、同社が今後5年間で吉野家の約1200店のうち500店ほどをキャッシュ&キャリーに切り替えるのは、大きなメリットがあるからだ。まず、従業員の負担軽減だ。客席まで膳や注文を取りに行く必要がなくなるため、高齢の従業員も働きやすく、人手が確保しやすくなる。

フルサービスをしない代わりに、メニュー数を増やして顧客の満足度を維持する。先行して改装した東京・恵比寿の店舗では、通常の店舗のメニューに加え「から揚げ丼」などフライヤーを使ったメニューやコーヒー、ケーキなども提供する。客席には充電用のコンセントが備え付けられている。

値上げにもかかわらず、「牛すき鍋膳」の売上げは底堅い(撮影:今井康一)

こうした改装によって、これまで来店の少なかった女性や若年層の客が増加し、客層の拡大が期待できる。実際、都心部のビルイン型で先行して改装した13店舗では(2018年12月末時点)、従来型の店舗と比較すると男性客は横ばいながら、女性客が47%増加した。顧客の平均年齢も1.2歳低下している。客単価も2%程度向上した。入店しやすい雰囲気からテイクアウトの利用も増えた。

P&G幹部起用しマーケティング強化

吉野家ホールディングスは2018年1月にP&Gでヴァイスプレジデントを務めた伊東正明氏を戦略担当顧問として招聘し、マーケティングの強化に力を入れている(同年10月に常務に昇格)。伊東氏は「牛すき鍋膳」などの鍋商品でもテイクアウト販売の需要があると見越し、キャンペーンなどの拡販戦略を打ち出している。

足元では苦しむ吉野家だが、未来への布石は着々と打っている。巻き返すことができるか。

佐々木 亮祐 東洋経済 記者

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ささき りょうすけ / Ryosuke Sasaki

1995年埼玉県生まれ。埼玉県立大宮高校、慶応義塾大学経済学部卒業。卒業論文ではふるさと納税を研究。2018年に入社、外食業界の担当や『会社四季報』編集部、『業界地図』編集部を経て、現在は半導体や電機担当。庶民派の記者を志す。趣味は野球とスピッツ鑑賞。社内の野球部ではキャッチャーを守る。Twitter:@TK_rsasaki

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