南アフリカ出身の起業家が日本を目指すわけ 神戸ベンチャー発表会は応募の過半数が海外

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ただ神戸市は、福岡市や浜松市などスタートアップ支援施策を打ち出している自治体の中では後発組。阪神・淡路大震災以降の財政難から脱し、神戸経済の活性化に向けてスタートアップ施策にようやく着手できたのが3年ほど前のことで、ほかの自治体に遅れをとった。

取り組みをまねるだけでは「神戸市のスタートアップ支援事業にかける本気度を示せない」(多名部氏)。そこで、自身でシリコンバレーを訪問。世界トップレベルのアクセラレーターでありベンチャーキャピタルとして世界的に著名な500 Startupsに狙いを定め、交渉し誘致に成功したという経緯がある。

500 Startupsと組んだことで、3回目の開催となった2018年のプログラムは応募総数237社のうち、海外からの応募が134社と過半を占めた。2017年の72社(応募総数216社)と比べて倍増し、海外起業家の注目度が高まっていることがわかる。国籍もマレーシアやシンガポール、中国など東南アジアを中心に、エストニア、アルゼンチン、ラトビア、スペインなどからも応募があった。

投資ファンドが運営するアクセラレータープログラムは通常、ファンドが参加企業に1000万円ほどを出資したら、参加企業は半分の500万円を参加費としてプログラム主催者側に支払う必要がある。だが、神戸市は参加費が不要。無料でメンターの指導を受けられ、ベンチャーキャピタルをはじめとした約400人の投資家の前でプレゼンテーションをし、資金調達することができる。参加費の安さもまた、海外の起業家からの応募が増えている背景にあるようだ。

神戸市で起業しなくてもOK

応募要件では「本社を神戸市に置く」ことにはこだわっていない。しかし、プログラム参加を機に神戸市に事務所を開設した海外起業家もいる。シンガポールでフィットネスサポートアプリを提供しているELXR(エリクサ-)は、2018年12月に営業活動と市場調査を行うため、神戸事務所を開設した。

シンガポール出身、エリクサ-の創業メンバーら。右端がCEOのFung氏(記者撮影)

「500万円の自己資金を持っていないと経営ビザの取得ができない」「法人登記に必要な日本の銀行の口座開設が難しい」――。海外の起業家が日本で会社を設立するには高いハードルを越える必要があるが、「神戸市は全力でサポートしてくれる」と、エリクサ-の馮宏宇(Steffan Fung)CEOは話す。

エリクサ-は、専用の分析キットで遺伝子を簡易診断し、遺伝子のタイプを「パワー」「バランス」「持久力」の3つに分類。スマホのアプリを通じて、タイプごとに最適なトレーニングプログラムを提供している。創業者のFung氏はシンガポール軍に16年間在籍した経験と、5年間のトレーナー経験を経て起業した。シンガポールでは、国の機関と連携したトレーニングや効果測定のイベントを開催し、アプリとリアルイベントの両面で会員数を増やしている。「神戸市には日本のマラソンブームを牽引してきたアシックスの本社がある。2020年に東京五輪を控え、日本のマーケットはスポーツ関連のサービスを広げる好機」(Fung氏)。

神戸市にとってはもちろん、地元で起業してもらうのがベストだが、「500 Startupsと組んでスタートアップ支援に力を入れる神戸市として、ブランドイメージが高まればうれしい」(多名部氏)と、あまり堅苦しく考えないようにしている。「日本人が考える日本のよいところや特徴と、外国人起業家が考える日本の価値は違う。スタートアップ企業にとって重要な、事業の新規性は外国人目線の方が生まれやすいように感じる」(同)。近い将来、神戸市の経済活性化のカギを外国人起業家が握る日が来るかもしれない。

中原 美絵子 フリーライター

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なかはら みえこ / Mieko Nakahara

金融業界を経て、2003年から2022年3月まで東洋経済新報社の契約記者として『会社四季報』『週刊東洋経済』『東洋経済オンライン』等で執筆、編集。契約記者中は、放送、広告、音楽、スポーツアパレル業界など担当。

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