トヨタの中国市場巻き返しが現実になる日 欧米系や地場メーカーとの熾烈な競争必至

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3つ目はVWなど独系メーカーの攻勢を打ち返すことだ。VWは中国での生産能力を2020年に約600万台に引き上げ、ライバル他社を圧倒する生産規模で競争優位を維持する戦略を図る。また地場大手EVメーカーJAC汽車とEV合弁工場(生産能力最大36万台)の設立や、上海でEV新工場(年産30万台)の建設を行い、2025年に中国でNEVを150万台販売することを目指す。

また独系高級車はNEVを含むラインナップの拡充や生産能力の増強を実施し、一般車市場からの消費者獲得にも力を入れる。BMW、ダイムラー、アウディの3社は完成車と電池パックの工場を建設し、2020年に合算200万台超の生産能力を確立するとともに、基幹部品も輸入から現地生産に切り替え一段のコスト削減を進める。

トヨタが仮に日本から全量輸入するレクサスを中国で現地生産するにしても、独系高級車ブランドと真正面から勝負するのは厳しく、高品質と技術による差別化で中国人ファンを獲得してゆく工夫が求められる。

中国自動車市場は2018年、新車販売が1990年以来28年ぶりにマイナス成長となり、調整期に入ったと受け止められている。だが長い目で見れば成長市場としてのポテンシャルは依然として高く、自動車メーカー各社はエンジン車とNEVのバランスを取りながら、中長期的な戦略をもって中国事業に取り組む必要がある。

中国合弁や大手ITとの協業必要か

中国政府は、2035年にエンジン車の販売を禁止する施策の検討に着手することを表明した。そして最近の中国地元紙には、「トヨタが吉利汽車とHV分野で提携」「トヨタ、福田汽車と水素燃料電池車(FCV)を交渉」「レクサスの中国生産」などの見出しが躍る。それだけトヨタの注目度は中国で高まっている。

トヨタは2018年、TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)プラットフォームを採用した初の中国産SUV「C-HR」「イゾア」を投入し、部品種類あたりの年間発注量を引き上げるコスト削減策を実施した。そして最上級セダン「アバロン」と「カローラ」PHVの中国生産を決定した。トヨタは今後ガソリン車以外のラインナップを適切に組み合わせてゆくことが肝要だ。FCVの現地生産は新境地を切り開くかもしれない。

しかしこれらを実現するには、国有合弁パートナーの中国一汽や広州汽車との関係を強化し、さらには成長著しい吉利汽車など大手民営自動車メーカーやスマートカー・自動運転の実用化で先行する中国大手IT企業とも、能動的に協業してゆくべきであろう。

湯 進 みずほ銀行ビジネスソリューション部 上席主任研究員、中央大学兼任教員、上海工程技術大学客員教授

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タン ジン / Tang Jin

みずほ銀行で自動車・エレクトロニック産業を中心とした中国の産業経済についての調査業務を経て、中国自動車業界のネットワークを活用した日系自動車関連の中国事業を支援。現場主義を掲げる産業エコノミストとして中国自動車産業の生の情報を継続的に発信。大学で日中産業経済の講義も行う。『中国のCASE革命 2035年のモビリティ未来図』(日本経済新聞出版、2021年)など著書・論文多数。(論考はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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