JR東日本、英国で鉄道運行「1年間の通信簿」 日本が誇る「鉄道力」はどこまで浸透したのか

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多数の列車が乗り入れるバーミンガム最大のバーミンガム・ニューストリート駅。流線型のデザインが美しい(記者撮影)

混雑の解消も日本の知見が期待されている課題の1つだ。ロンドンからミルトン・ケインズ(ロンドンから約80km離れたベッドタウン)に至る区間は4つの運行会社が競合するが、とりわけWMが運行する列車は夕刻時に混雑率187%に達し、2018年夏に運輸省が作成した混雑率ランキングで第5位にランクされた。

「今後、新車両投入、増発、車内レイアウトの工夫などによる輸送力向上で解決していきたい」と、JR東日本・英国フランチャイズグループリーダーの小島泰威氏は話す。2019年5月のダイヤ改正を皮切りに、2020年、2021年と段階的に輸送量を高めていく構えだ。

英国の通勤列車の座席は日本のように横に長いロングシートではなく、向かい合って座るクロスシートが採用されていることが多い。通路が狭いからかもしれないが、混雑区間に実際に乗車してみると、ドア付近に多くの乗客が固まっていることに気づく。細かく車内アナウンスをして、奥に詰めてもらえれば、多少なりとも車内は快適になる。こういうちょっとしたことでも、今後、JR東日本のノウハウが役立つかもしれない。

目指すはJR東日本が主導する運行

アベリオ、JR東日本、三井物産の3社は、「サウスイースタン路線」の運行権獲得にも名乗りを上げている。ロンドンとアシュフォードを結ぶ、日立製作所が製造した高速列車が走っていることで日本でも知られている路線だ。利用者数も運賃収入もウェストミッドランズを大きく上回る。

首尾よく運行権獲得に成功し、ここでも実績を重ねれば、JR東日本はもはや新参者ではない。現在は15%出資にとどまるが、将来、別の案件が出てくれば、今度は主導的な立場で英国の鉄道運行に携わる可能性があるかもしれない。

そのためには「日本とは仕組みがまったく違う国で交渉できる力を身に付ける必要がある」と小島氏は話す。運行会社は運輸省、ネットワークレール、車両リース会社、車両保守会社などさまざまな立場の当事者と折衝を行い、ベストの解決策を探っていく。「欧州で豊富な経験を持つアベリオの仕事のやり方は、見ていてたいへん参考になる」(同)。

活躍の場は英国だけとは限らない。外国企業にも運行業務の門戸を開いている国は世界中にある。MTRは英国の運営会社に出資しているほか、スウェーデンの都市間鉄道やメルボルンの都市鉄道の運行も行うなど、世界中で鉄道事業を行っている。規模でMTRを上回るJR東日本が同様に海外展開できないはずはない。

「HITACHI」ブランドで英国を走る高速列車、アメリカ・ニューヨーク市の地下鉄車両でシェア首位の川崎重工業のように、日本の鉄道産業における海外展開例の多くは車両メーカーだった。鉄道会社ではJR東海(東海旅客鉄道)による台湾高速鉄道への技術コンサルティング、東京メトロ(東京地下鉄)によるベトナム・ホーチミンの都市鉄道プロジェクトへの運営支援、JR西日本によるブラジルの都市鉄道事業への出資などがにとどまる。日本の鉄道力を支える鉄道会社が世界における運行事業に乗り出さないのは、あまりにももったいない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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