横須賀線車両、新型の「顔」から消えるのは何? 緊急時の避難に「貫通扉」はなくても問題ない

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地下鉄の場合、側面の扉を開けて車両から脱出するにはトンネルが狭く、避難することは困難だ。それゆえ前面に貫通扉がある。地下鉄は大半がトンネルのため、大きめに造れば建設コストもかさむ。

一方で、横須賀線や京葉線のような、地下区間のある一般路線の場合はトンネルを大きめに造ってある。同様の構造は、たとえば東京臨海高速鉄道りんかい線、小田急小田原線の下北沢付近、仙台のJR仙石線の地下区間でも見ることができる。これらの路線を走行する列車は、貫通扉がなくても問題はない。側面からの脱出が可能な広さがあるからだ。

こういった違いにより、横須賀・総武快速線のE235系には貫通扉がなくても問題ないのだ。実は、現在走っているE217系も1998年度以降に製造された車両は貫通扉があるように見えるものの、これはデザイン上そうなっているだけで、実際には扉ではなくなっている。省令改正によって必要がなくなったからだ。

ちなみに長大トンネルである青函トンネルでは、何かあった際に歩いて避難できるように対策が施されており、前面貫通扉を造りようがない流線型の新幹線でも問題なく走ることができる。もちろんトンネルの幅も広い。

扉が非常階段に変身する例も

11月に引退した東京メトロ千代田線の6000系。前面の扉は前に倒れるように開く構造で、そのまま非常用の階段になる構造だった(写真:tarousite / PIXTA)

前面に貫通扉を設けなければならないとなると、デザイン上の制約が出てくる。地下鉄など鉄道各社はこの点にも工夫してきた。その一例が、11月に東京メトロ千代田線から引退した6000系だ。

この車両は、前面の貫通扉自体が非常階段となっており、いざ避難するときは貫通扉が前面に倒れるようにして開き、扉の裏側にある階段をそのまま降りて避難することができる。有楽町線・副都心線用の7000系、半蔵門線用の8000系も同様である。前面貫通扉がぱかっと開いて非常用階段となるのはカッコいいアイデアだったが、それ以降に造られた東京メトロの車両では、この方式は採用されなくなってしまった。

貫通路の外観や有無だけでなく、非常時に対する考え方も変わりつつあるといえる。横須賀・総武快速線のE235系は、停電などの異常時に駅間で停まったときも最寄り駅や安全に避難できる場所まで走行可能な非常走行用電源装置を搭載する。この技術で、何かあったときも線路上を歩かず済むようになりそうだ。

前面貫通扉のあり方の変化は、安全対策のあり方の変化を表しているのかもしれない。

小林 拓矢 フリーライター

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こばやし たくや / Takuya Kobayashi

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学卒。在学時は鉄道研究会に在籍。鉄道・時事その他について執筆。著書は『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。また ニッポン鉄道旅行研究会『週末鉄道旅行』(宝島社新書)に執筆参加。

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