ニッチな個性が生きる道? 孤高のアップルはどこへ行く《特集マイクロソフト》
パソコンの世界において、マイクロソフトのウィンドウズに対抗する最大の“代替案”は、今も昔もアップルのマッキントッシュ(マック)だ。しかも、そのマックの売り上げは下グラフのようにここのところ好調だ。ガートナーの調べによると、マックのシェアは2005年の2・2%から07年には2・9%へ上昇している。
マックが飛躍するきっかけになったのが、エンジンに相当するCPU(中央演算処理装置)の大転換だ。それまではIBM製のCPU「パワーPC」を用いてきたが、06年1月から7カ月で全ラインナップをインテルへ切り替えた。この転換により性能面、コスト面でウィンドウズパソコンと遜色がなくなったのだ。
いや、「遜色がない」どころではない。アルミニウムとガラスを用いたデスクトップパソコン「iマック」、アルミ薄型ボディのノートブックパソコン「マックブック」などのデザインは、他メーカーにはない斬新さがある。10月14日発売の新マックブックの製品発表会では、1枚のアルミを加工したつなぎ目のないボディを製造するラインのビデオを公開。その先進性をアピールした。「あまりにすばらしいので見せずにいられなかった」(フィル・シラー上級副社長)。秘密主義のアップルにしては、異例のディスクローズだ。
外観だけでなく、スペックの点でもマックブックは最先端。エヌビディア社製の最新のグラフィックチップを用いているため、複雑な計算が必要な3Dゲームも滑らかに表示できる。しかも、価格は14万8800円に抑えられている。ウィンドウズ搭載の同等スペックのノートパソコンは20万円を超えるものが多いため、価格もお得だ。
とはいえ、ウィンドウズユーザーにとっての不安は、何といってもOSがマックであることだろう。マックに対応したソフトの数は少なく、普段使い慣れているウィンドウズソフトを使えないのはつらい。ウェブアプリケーションの中にも、マックでは使えないものが多い。
しかし、実はその点についても、もはや悩む必要はない。今のマックは、ウィンドウズの動作をアップル自身が保証しており、ウィンドウズパソコンとして用いることができる。マウスの機能についても、ウィンドウズでおなじみの「ダブルクリック」に対応した。ウィンドウズからマックへ移行する際の障害は、かなり取り払われたといえる。
ただ世界シェアを大きく引き上げることは容易ではない。新興国での需要が大きく伸びているため、ここに食い込めるかどうかがシェア向上のポイントだ。現在、ウィンドウズ陣営にはエントリーモデルとして5万円程度の低価格パソコンがあり、その存在感は増しつつある。最初に触ったパソコンがウィンドウズだと、その後もウィンドウズを使い続ける可能性が高い。アップルもエントリーモデルを用意して、「最初に触るのがマック」というユーザーを掘り起こす必要があるだろう。
また、「企業」も大きな壁だ。マックは、教育、デザイン関係など一定の領域では強いが、一般の業務に用いるパソコンは完全にウィンドウズの牙城。多くの情報システム部門は、複数のOSがあると管理の手間とコストが余計にかかる、との理由でマックの侵入を拒んでいる。
ただし新興国向けエントリーモデルや企業向けパソコンなど製品のバリエーションをむやみに増やしてしまえば、ウィンドウズとは異なるアップルならではの個性が失われてしまう。数%のシェアの中で独自性を発揮し続ける--これがアップルの生きる道なのかもしれない。
(週刊東洋経済)
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