本質は「移民法」、参院では真正面から議論を 「出入国管理法改正案」、空疎な衆院の議論
中でも最も重視すべきは治安の問題だ。移民受け入れの態勢が不十分な中で衝突が頻発するおそれがある。だからこそ自民党の法務委員会理事の平沢勝栄衆議院議員が、「この問題は議論してもきりがない。いくらでも問題が出てくる」と思わず本音を漏らしたのではなかったか。元警察庁キャリア官僚の平沢氏は、治安問題に精通している。
2017年末現在で、日本に中長期に滞在する外国人は223万2026人。新制度では5年間で最大34万人の外国人労働者を受け入れる予定だが、それに伴う混乱は予想されないのか。ヨーロッパではアラブの春をきっかけに難民が押し寄せ、ドイツのアンゲラ・メルケル首相がいちはやく2015年9月に移民受け入れを表明するなどの流れを作ったが、今ではこれを制限する方向に転換しつつある。
ドイツでは2017年9月の総選挙で移民受け入れに反対する右翼政党「ドイツのための選択肢」が初めて議席を獲得し、94議席も獲得して第3勢力に躍り出た。かろうじて政権を維持したメルケル首相自身も、今年7月2日に移民受け入れ政策を事実上撤回している。連立政権を維持するため、かねてから移民問題で対立していたキリスト教社会同盟党首のホルスト・ゼーホーファー内相と妥協したためだ。
またフランスでは2017年4月の大統領選で、極右政党である国民戦線のマリーヌ・ル・ペン党首が躍進し、第1回目の投票で「共和国前進」のエマニエル・マクロン氏(現大統領)に次いで2位につけた。オーストリアでも昨年12月、移民政策に厳しい31歳のセバスチャン・クルツ・オーストリア国民党代表が首相に就任している。
一方で日本は、政府が「移民ではなく外国人労働者の受け入れ」と主張し、問題の本質をごまかそうとしている。強気の理由は内閣支持率が高いことだ。11月25日に公表されたNNNと読売新聞の共同調査では、内閣支持率は前回から4ポイント高い53%で、不支持率は41%から5ポイントも減って36%。11月13日のNHKの調査でも、内閣支持率は4ポイント高の46%で、不支持率は3ポイント減の37%だった。
世論調査が国民の法案への不安を物語っている
しかし外国人労働力受入れ法案については、いずれも「成立を急ぐ必要はない」との回答が最多で、NNNと読売新聞の調査では73%にも上っている。国民は新制度の実態が移民制度の導入であることを見抜いているのだ。
さて衆議院を通過した出入国管理法改正案は11月28日、参議院に舞台を移した。与党は10時からの本会議に首相が出席し、出入国管理法改正案の審議入りを目指したいが、「衆議院通過の翌日に審議入りした前例はない」と野党が反発。午後4時からの開会をめぐり、対立した。
なお来年には議員の半数が改選を迎える参議院では、この法案に対する世論の動向が気になるところだろう。とりわけ2013年の参議院選で65議席獲得と勝ち過ぎた自民党は、実際には危機感が非常に大きい。官邸の思惑に従わざるをえない中でブレが見えかくれする。だからこそいたずらに近視眼に陥ることなく、何よりも参議院の「理の政治」にふさわしい審議内容を期待したい。
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