不安定化する、中国の金融市場 改革の影響をめぐり、思惑が交錯
[上海 22日 ロイター] -中国政府が先週大掛かりな経済・社会改革を示したのに反応し、同国の金融市場が急変動している。改革の方向性とテンポをめぐる観測が入り乱れ、ただでさえ不安定だった今年の中国市場は火に油が注がれた格好だ。
中国共産党第18期中央委員会第三回全体会議(三中全会)が閉幕した翌日こそ株価は2%下落したが、わずか2日後には3%急伸した。
対照的に短期金融市場と債券市場では、金利自由化によって金利が上昇するとの懸念から、社債の発行に十分な応募が集まらないといった事態に陥っている。
60項目に及ぶ改革案は金融市場の隅々まで網羅している。市場参加者は、どの企業や金融商品が改革の恩恵を受け、どれに悪影響が及ぶのかに思惑をめぐらせ、市場の振れが大きくなる恐れがある。
「一人っ子政策」の緩和はベビー用品メーカーの利益を押し上げるか。不動産税制の実施で不動産市場から債券に資金が移動するのではないか。株は、キャッシュは、競争にさらされる国営企業はどうなる──。
シティグループ(香港)の中国調査責任者、シェン・ミンガオ氏は「改革とは痛みを伴う調整で、35年を経てなお手つかずだった改革分野であるだけに難しい」と指摘する。
中国の指導者は、あらゆる資産の価格決定で市場に「決定的」役割を果たさせると約束している。これは長期的には中国経済を利するとの見方が大勢だが、短期的には、これまで右肩上がりを想定されていた資産クラスなどに下落リスクが持ち込まれることを意味する。
最も不透明感が強いのは、中国の市場参加者、とりわけ取引量の大半を占める素朴な個人投資家が改革の痛みにどう反応するかだ。
多くの個人投資家は景気後退の経験を持たず、住宅投資で損失を被ったこともなければ、国内社債のデフォルト(債務不履行)を耳にしたこともない。これまで大幅な下落リスクがあると認識されてきたのは株式市場だけだ。
株式市場自体、何が起こるかわからない。規制当局は1年にわたって新規株式公開(IPO)を凍結してきた。これは既に上場済みの企業の株価押し上げが真の狙いだと多くの投資家は見ている。
ひとたびIPOが解除されれば、新規上場により株価が希釈化されて株式指数が急落しかねないとの懸念は強い。その上、当局は外資系企業の上場も認め、国内大手企業との資金の争奪戦に道を開くとの見方もある。過去にはこうしたうわさが広がっただけで株価が下落したことがあった。
さらに、中国のデリバティブ市場はまだ試行段階にあり、投資家はリスクヘッジの手段を欠いている。
<社債発行を延期>
市場の緊張状態は今週も続いた。上海、深セン両株式市場の大型株で構成するCSI300指数の実現ボラティリティは19日、短期金融市場で資金がひっ迫した6月以来の高水準に上昇した。
短期金融市場と債券市場も不安定だった。先週実施された政策銀行2行の社債入札は応募が発行予定額に届かず、上海証券報の21日の報道によると、今月は需要が弱いため、少なくとも20社が社債発行を延期した。
中国人民銀行(中央銀行)は21日、中国国家開発銀行
短期トレーダーやアナリストは、中国の債券市場で弱気観が増す一方で株価は全般に恩恵を受けるという状態が、今後の常識的な姿になると予想している。
モルガン・スタンレーのリサーチャー・チームはリポートで「改革は中国に良い影響を、債券市場には悪い影響をもたらす」と指摘。中国の債券市場において最大の市場参加者は国営企業なので、起債コストを引き上げると同時に国営企業間の競争を激化させる改革により、債券の魅力は全般に衰えると分析している。
「市場ベースの価格決定、国営企業改革、戸籍(戸口)制度をめぐる政策は、市場への影響が最も大きく、2年間続いた債券相場の安定という基調を反転させかねない」という。
<改革の順序>
エコノミストは、通貨から住宅、株式・債券市場に及ぶ改革の適切な順序を見極めることが、金融市場の不安定化を回避する上で鍵を握るとくぎを刺す。
順番を間違うと、投資家が突如としてポートフォリオのリバランスを行い、ある市場における改革が別の市場の不安定化を招きかねない。
市場間の相互反応は強まっている。例えば、短期金融市場で現在需給が引き締まっているのは、不動産市場の上昇が一因だ。当局が金融システムへの資金供給を絞って住宅価格の過熱を抑えるのではないかとの思惑から、銀行がキャッシュを抱え込んでいる。
予測が難しい要因として最後に挙げられるのは、外国からの投資資金の流入だ。エコノミストによると、こうした資金流入のかなりの部分は、外為市場の開拓が狙い。外為市場では人民元の上昇が止まらず、最高値の更新が続く。
中国政府がいつ、どのような方法でこうした資金流入の増加を許すかは、市場動向に大きな影響を及ぼすだろう。
クレディ・アグリコルCIB(香港)のストラテジスト、DariuszKowalczyk氏によると、これまでのところ国内外の投資家は様子見姿勢を決め込んでいる。同氏も他のアナリストも、投資家がこれまでの当局の動きを見てポートフォリオリオを大幅に調整している兆候は乏しいと言う。
Kowalczyk氏は「当局はおそらく市場全般をがっかりさせることになりそうだ」とし、とりわけ改革計画に株式市場の上場廃止メカニズムが盛り込まれなかった点に失望したと指摘。「基本的に、政府はゴールだけ示して達成の方法を説明していない」と話した。
(Pete Sweeney記者)
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