テスラに悩まされるパナソニック社長の本音 「いったい何者なのか」と自問自答した真意

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津賀氏はこう打ち明ける。「車載電池の会社になるといっても、10年後、20年後に自動車ビジネスがどうなっているかはわからない。そう簡単に事業領域を絞り込むことは難しい」。

慎重な物言いの背景には、車載電池を巡る環境の変化がある。その1つが、テスラの混乱だ。同社初の大衆車となる「モデル3」の生産を2017年7月に開始したが、全自動ラインの立ち上げに苦戦。本来、昨年12月までに達成する予定だった週次5000台の生産目標は今年6月へとずれこんだ。これに伴い、パナソニック側の電池の出荷も計画比で下振れし、生産過剰となった一部を住宅用蓄電池向けに振り分けるなどの対応に追われた。

イーロン・マスク氏のツイッターが波紋

それに加えて、テスラのイーロン・マスクCEOの奔放な言動にも肝を冷やすことになった。これまでも過激な言動が話題になってきたマスク氏だが、今年8月にはツイッターで突然、株式の非上場化を示唆し、株価操縦の疑いがあるとしてアメリカの証券取引委員会から起訴される事態にまで発展した。

モデル3の生産台数は、設備の入れ替えなどが奏功し、足元は週次5000台で安定してきた。10月25日に発表された7〜9月期決算は市場予測を上回り、これまでマイナス値が続いていたテスラのフリーキャッシュフローが8億8100万ドルのプラスに転換。パナソニックの電池の出荷も大幅に拡大しているはずだ。それでも、株式市場の見方は厳しく、2018年の初頭から続く株価の低迷は未だ底を打ちそうにない。

テスラ初の大衆車「モデル3」の生産は安定してきたが…(写真:Tesla)

モルガン・スタンレーMUFG証券の小野雅弘アナリストは、パナソニックの株価低迷をこう分析する。「株価の変動幅が大きい現在の市場環境では、少しでもリスク要因のある銘柄は避けられる。パナソニックの場合、車載電池の最大顧客であるテスラの生産状況の不透明性に加え、テスラと組むこと自体、同社の信用度を下げるリスクがあるとみられている」。

津賀氏も東洋経済の取材に対し、「テスラとのリスクは常にヘッジしているし、テスラが倒産するわけでもないが、唯一どうにもできないのはイーロンの言動」と苦悩を語った。

今後どこまでテスラと付き合うかも問題だ。10月には中国・上海の工場用地を獲得し、2019年から一部生産を始める予定。パナソニックの津賀氏は中国での協業も「検討する」と発言してきた。ただ、「中国でも手を組む場合、従来よりよい条件でテスラと協業し、投資負担やリスクを抑えない限り、収益性の大幅な向上は望みにくい」(みずほ証券の中根康夫アナリスト)との指摘もある。

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