49歳キャスター小西美穂の華麗で泥臭い半生 「news every.」アンカーはここまで徹底する

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組織人としての重責を担う日々に、やがて小西はプレッシャーから眠れなくなり、「人間の体ってあまりに寝られないことが続くと、あちこちにどっとしわ寄せがくるんです。出社途中にポロポロ涙が出てきたり、オンエアが近づくと顔が真っ赤っかになったり、体も精神もボロボロ、服に興味を失って3〜4日同じ服着て。明けない夜はない、必ず朝はくるよ、なんてみんな慰めて言うでしょう。そんなら朝がいつ来るか教えてよ、って!」。

「発散ノート」と「改善ノート」

そんな小西を救ったのは2種類のノートだった。「発散ノート」では怒りも妬みも僻みも、思ったとおりのことを汚い言葉で一気に吐き出して書く。もう1つの「改善ノート」では、あらゆる人との会話、テレビやラジオで気づいたことなどを、自分の参考書を作るようにして書き留めていった。

記者魂をここでも発揮するかのように角度を変えて自分磨きをし、小西は曰く「激しい婚活」を経て11歳年下の男性と結婚する。苦しんだ『深層NEWS』も、アリ地獄から少しずつ這い上がるようにして、結果的には3年半にわたって続いた。「発散ノートはもう人には見せられないようなことがたくさん。書き終わったら破いて捨てていました。夫にも見られたらダメなこと書いてますから、結婚するときも家じゅう大捜索して処分しましたよ(笑)」。

手帳にも、その時の感情や心が動いた言葉、取材や書籍化のアイデアなど何でも記録する。とにかく「メモ魔」。書き留めることで1つずつ血肉にしてきた(小西さん提供)

「43歳でそつなくあの仕事をこなしていたら、こんな本、出していないです。あの時期がなかったら、今のあたしはない、そう思います」。この書籍の基になった日経ウーマンオンラインの連載では、今でも更新のたびに毎回働く女性から熱い共感の声が届く。

現在、49歳。「これから挑戦してみたいこと? うーん、がっかりさせるかもしれないけど、ないです。自分のことばっかりガムシャラにやってきて、心のどこかで、毎日取材を通して大勢と接して社会の役に立っているような気分になってたんですよね。でも、本来業務のニュースでは私個人の経験とか失敗とかは伝わりにくい。ええカッコせずに何歳でこんなことあった、キツかった、でも具体的にこうしたら救われたって、後に続いている女子に伝えて背中押せたらええな、そういうことができるということがすごくうれしいな、と思えるところにようやく来れたのかなぁ」。

女の人生には、ガムシャラも、キラキラも、ドツボもあっていい。「アラフィフですからね。(視力が悪くなってきて)スタジオのカンペとか、もう見えへん。私のは大きな字で書いてや、って言ってるんです」。唯一無二のキャリアを歩む人気実力派ニュースキャスターは関西弁でそう言って、アッハッハッと弾けるように笑った。

河崎 環 フリーライター、コラムニスト

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かわさき たまき / Tamaki Kawasaki

1973年京都生まれ、神奈川県育ち。桜蔭高校から親の転勤で大阪府立高へ転校。慶應義塾大学総合政策学部卒。欧州2カ国(スイス、英国ロンドン)での暮らしを経て帰国後、Webメディア、新聞雑誌、企業オウンドメディア、テレビ・ラジオなどで執筆・出演多数。多岐にわたる分野での記事・コラム執筆をつづけている。子どもは、長女、長男の2人。著書に『女子の生き様は顔に出る』(プレジデント社)。

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