ついに着工「インドネシア高速鉄道」最新事情 沿線に立ち並ぶ中国語の旗、開業は2024年?
現場はいかにも僻地のようだが、意外にも交通アクセスは良い。高速道路も通っており、バスに乗ればジャカルタまでは3時間弱。高速鉄道開業後はわずか30分でジャカルタと結ばれる。世界有数の過密都市ジャカルタの住宅事情を考えれば、緑に囲まれたゆとりある生活空間と新幹線通勤は、意外と簡単に受け入れられるであろう。成功すれば、土地保有者である第8国営農園会社に落ちる利潤も計り知れない。
9月下旬にジャカルタで開催された「インドネシア交通エキスポ」でKCICブースの大半を占めていたのは、このワリニ駅周辺開発予想図のジオラマとその解説であった。担当者曰く、これが公になるのは今回が初という。一方で「ジャカルタ―バンドン35分」というこれまでの宣伝文句はどこか控えめだった。
担当者は公共交通指向型都市開発(TOD)の一環であると胸を張るが、近年インドネシアでもてはやされているTODという言葉自体が、高速鉄道プロジェクトと共に持ち込まれた単語であることを忘れてはならない。
日系コンサルが関わってきたジャカルタ首都圏の交通政策において、公共交通中心の街づくりは遅々として進まなかった。駅などの交通結節点の強化ばかりが謳われ、土地を媒介として利益を生み出す仕組みがあまり議論されてこなかったからではないだろうか。
ところが、近年一気に議論が進んだTODは、基本的に駅周辺のKAIが保有する遊休地に国営建設会社がモール併設のアパートを建設し、駅周辺で生活が完結するようにデザインされている。日本人が考える公共交通中心の街づくりとは異なるものだ。高速鉄道の場合も考え方は同じで、ワリニ駅周辺では国営企業が保有する用地を開発する。不動産デベロッパーも高速鉄道開業を見越した大規模開発をすでに始めており、大手財閥リッポーグループが手掛けるメイカルタもその1つだ。今さら高速鉄道事業が凍結されては困るというのが実情だろう。
鉄道だけでは成り立たない実情
つまり、これは単純なジャカルタ―バンドン間の輸送需要だけでは、巨額の建設費を回収できないということを意味している。沿線に都市を開発し、さらにそこから生まれる通勤需要を生み出す、これが建前上は民間会社であるKCICの描く青写真である。
インドネシアの高速鉄道というと、日本では中国の案件横取りとインドネシアの不誠実な対応がやり玉に上がり、非難される節がある。だが、仮に日本が受注していたとしても、果たして円借款による建設で順調に進んだのかどうかの検証も必要であろう。オールジャパンによるインフラ輸出という旗印ばかりが先行し、民間企業との温度差を指摘する声もある。
仮に日本が受注していた場合でも、土地収用や収益性という面で、日本企業にとって茨の道となった可能性もあると関係者は語る。高速鉄道単体ではうまみがないにもかかわらず、鉄道一辺倒で売り込みを行った日本側にも落ち度はあるのだ。事業化ありきで実現可能性調査を進めると、このような不幸も起こりえるということは認識しておくべきだ。
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