ついに着工「インドネシア高速鉄道」最新事情 沿線に立ち並ぶ中国語の旗、開業は2024年?

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だが、起工式のあとも順風満帆ではなかった。提出書類の不備などを理由にジョーナン運輸相(当時)が建設許可を与えなかったからである。だが、ジョーナン氏はその後2016年7月末の内閣改造で政府を去ることとなり、事実上の更迭となった。

駅前TOD開発の着工式に出席したリニ国営企業相(中央の女性)。左隣がジョーナン氏の後任ブディ運輸相(筆者撮影)

同氏は先述のゴーベル氏と共に親日派で知られる人物で、中国による高速鉄道を推進するリニ国営企業相との確執が要因といわれる。この際、兄弟に元日本留学生がおり、日本に縁の深いアニス教育文化相(現ジャカルタ州知事)も閣僚から外されている。そして2016年8月、建設許可が後継の運輸相から交付された。つまり、インドネシア政府内においても、日本案・中国案に揺れ動いていたことがうかがえる。

この背景には、インドネシア初となる、軍人でも世襲でもない「平民宰相」のジョコウィ大統領が内閣をコントロールできていない状況があると政府に近い関係者は言う。つまり、一部閣僚の私利私欲と権力争いの中で、中国案が採用された可能性が極めて高いのだ。それゆえ内閣改造を行ったとしても、高速鉄道推進派と懐疑派の攻防は続くことになった。今年の初めには、ジャカルタ―バンドン間の建設では十分な需要が見込めないとして、設計そのものの見直しすら迫られる事態となった。

もっとも、仮に順調に着工に漕ぎつけたとしても、2019年開業は間に合わないという見方が、当初から多数を占めている。

大統領任期中の開業目指す

なぜ中国はあえて2019年開業を推し続けたのか。それは、ジョコウィ大統領の2期目がかかる政治的理由に因むものである。任期満了に伴う次の大統領選挙は2019年4月。インドネシア国民特有の大統領信仰のもと、大統領は英雄であり続けなければならない。しかし、ジョコウィ氏は盤石な政治基盤も手腕も持たない。だからこそ、インフラ開発などの目に見える成果にすがる傾向がある。これが2019年開業を打ち出した理由なのだ。

ジャカルタ東方、ブカシ付近の高速鉄道用地(左)。中央には第2高速道路、さらに奥にはLRTを建設中(筆者撮影)

では、どうしてこのタイミングでの着工なのか。まず1つは時間的問題だ。インドネシアの大統領任期は5年。今着工して順調に工事が進めば、ジョコウィ大統領の2期目在任中に開業が可能だ。逆に、次の任期中に開業できなければ史上最低の大統領のレッテルを貼られる可能性がある。待ったなしの時期なのである。次いで、物理的な問題が解決したことだ。これは今夏にインドネシアで開催されたアジア大会に向けての道路・鉄道建設ラッシュが一段落し、技術者や現場作業者が確保できた点である。

中国からの資金調達はどうか。これまでは土地収用の遅れを理由として融資が滞る場面もあったが、難航していたジャカルタ側始発駅周辺の空軍用地がこの7月に高速鉄道会社側に引き渡された。残る未取得用地は主にバンドン近郊区間だが、インドネシア交通エキスポのKCICブース担当者は、今年中の用地取得完了を目指し、年末までに約11億ドル相当の融資を受けると語った。その後も進捗状況に応じて融資は実施されるため、土地と資金に関する問題は解決しているという。

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