安倍政権を断じて「保守と呼べない」根本理由

80年代を境に「別物」になった戦後の保守論壇

――戦後の保守論壇は1980年代を境に変質したということでしょうか。

中島:変質したというよりも、保守とは別物になったと考えたほうがいいと思います。保守とは異質なものが保守派を名乗るようになったと見るべきです。実際、猪木正道は、若い世代の保守論客たちが戦前の日本の負の側面を否認することに対して、厳しい批判を加えていました。

先ほども述べたように、保守は人間に対して懐疑的な見方を持っており、大東亜戦争を導いた革新主義とは相容れません。それゆえ、本来の保守派であれば、大東亜戦争を肯定的に論ずることはそう簡単ではないはずですが、私が20歳になったころには、歴史修正主義的な言論があふれるようになっていた。

そのことに、疑問をずっと抱いていたのですが、実際に戦中派の保守論客たちがどんな言葉を残していたのか。今では忘れられつつある彼らの言葉を掘り起こしたのが、新刊『保守と大東亜戦争』です。

「保守の不在」を解消するために

――戦前につらい経験をした人たちは、往々にして、戦後になると左翼や共産主義者になりました。しかし、『保守と大東亜戦争』に出てくる人たちは、戦前の日本のあり方も批判していますが、同時に戦後の左翼思想や戦後民主主義についても批判的です。

中島:それは彼らが戦前と戦後をコインの表裏とみなし、両者に共通点があると考えていたからです。

たとえば『ビルマの竪琴』の著者として知られる竹山道雄は、戦後の日本に広がった共産主義は戦前の革新主義が姿を変えたものだと考えていました。竹山は戦後に共産主義の影響を受けて過激化した学生たちに、戦前の二・二六事件の青年将校たちの姿を重ねます。そして、戦後の日本が戦前と同じ轍を踏まないように、共産主義を徹底して批判したのです。

また、田中美知太郎は、彼自身も戦前から大東亜戦争に批判的だったのですが、戦争反対が絶対的な正義とされた戦後の風潮を嫌っていました。田中は戦後に「平和」を叫ぶ人間に、戦争中に「国体」を叫んだ人間と同じ心理を見出します。そのため、これらは両方とも信じることはできないと批判しました。

あるいは猪木正道は、日本が軍国主義に走れば周辺諸国を刺激して孤立を招いてしまうため、それは避けなければならないとする一方で、非武装中立を掲げる空想的平和主義では直接・間接の侵略を招くので、こちらも避ける必要があると強調していました。猪木からすれば、軍国主義が暴走することと空想的平和主義が暴走することは同じくらい危険なことだったということです。

このように大東亜戦争からも戦後の価値観からも距離をとるのが、本来の保守のあり方だと思います。

――安倍政権が革新主義的な振る舞いをする一方で、安倍政権に批判的な人たちも戦後民主主義的な価値観にとらわれているように見えます。いまこそ本来の保守が必要とされています。

中島:これは一般には左派と言われる評論家・鶴見俊輔が述べたことですが、日本では保守主義の流れがきわめて脆弱です。このこと自体が、実は日本の弱さなのです。

『保守と大東亜戦争』(書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

もちろん保守的な要素を持つ人たちがいなかったわけではありません。戦前では福沢諭吉もそうですし、中江兆民もそうです。そこに吉野作造を加えてもいいでしょう。しかし、イギリスのエドマンド・バークのように、自覚的に保守主義者として振る舞った人はほとんどいませんでした。

また、保守的な要素を持つ人たちがみなバラバラに活動していたことにも問題があります。竹山道雄と田中美知太郎の間には、思想形成期に強いつながりはありませんでしたし、その他の人たちも似たような状況でした。そのため、保守という1つの潮流が形成されにくかったのだと思います。

これは今日においても言えることです。現在の日本でも本来の保守はマイノリティです。そのため、西部邁先生からはよく、日本には自覚的な保守派は10万人くらいしかいない、だから保守に関する本を1万部売るのは大変だぞ、と言われました。

「保守の不在」を解消することは、安倍政権のような革新勢力が台頭している今日こそ必要とされていることです。そのためにも、私たちは戦中派の保守論客たちの見解に耳を傾け、保守のありようを見直さなければなりません。私が『保守と大東亜戦争』を書いたのもそのためです

(聞き手・構成:中村友哉)

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