名列車「雪月花」を生んだ男たちの熱いドラマ

理想と現実を両立させるための「極限の戦い」

雪月花のデザイナー・川西康之氏(撮影:尾形文繁)

雪月花はET122系をベースにした気動車である。気動車だから線路に併設して設置されている架線から電気を取ることができない。これが後々、車両設計はおろか提供サービスの細部にわたるまで縛っていくことになる。それまでも何度かトランシスと川西氏との間で協議を行っていたことはあるのだが、こと電気容量がメインの会議になったときの雰囲気は、当初から随分と張りつめたものであった。

トランシス側から電気設計の統括者が出てきて、開口一番「(コンセントが)多すぎます!」と発言した。コンセントもそうであるが、そもそもの電気容量についても、トランシスから出された修正案はトキ鉄側が川西氏に依頼していた認識とは格差があった。電子レンジをあきらめたり、冷蔵庫などの大きさの制限をかけたりと、不要不急の電気機器の見直しを余儀なくされた。

魅力的な大きなガラス窓の矛盾

雪月花の設計思想の特徴の1つに、大変大きなガラス窓がある。天井まで伸びる日本最大級の側窓である。この国内最大級のガラスを導入するに際し、多くの耐久テストを実施し、限界ぎりぎりまで大きくした経緯がある。そして、このガラスは、紫外線を99.99%カットしている。営業やPRの際には、このガラスが紫外線をカットしていることを前面に打ち出して営業している。

川西氏は紫外線をカットするガラスは、むしろ普通であり、そんなことよりほかにPRすべきことがある旨を主張したが、私はそれを肯じなかった。というのも、今の世の多くの女性が、紫外線からいかに身を守るかに神経をとがらせている。男性にはわからないほど神経質になっている女性もいる。そして、雪月花の利用者の多くを占めるのは女性であろう。リゾート列車で女性からそっぽを向かれたら、なかなか誘客は厳しい。パンフレットには、大きな窓で開放感がある一方で、紫外線対策ができていることを盛んにアピールした。

むしろ、看過できないものは日差しである。太陽光のうち赤外線はまったくカットしていないのである。

赤外線をカットしないことには大きなメリットがある。赤外線をカットするためには、どうしてもガラスに色がつく。すなわち外の世界の景色は多少なりとも色眼鏡がついて見える形になる。赤外線をカットしない、ということは外の世界の色をそのまま見ることができる、ということだ。雪月花の車窓は、ガラスを通さない車窓とほぼ同義語なのである。

しかし、赤外線をカットしないことで熱がこもる。最初の夏は、初めてということもあり、お客様にも大変なご負担をおかけした。空調を全力でかけていても、室温はどんどん上がり始め、ほんの数十分で8度以上も室温が上がったことがある。ビニールハウス状態である。

雪月花の魅力の1つは広い窓であるから、カーテンを閉めるよう安易に言うことはできない。車窓の魅力を損なわない停車中に、すべてのカーテンを閉めるなどで乗り切っている。ほんの数分でも驚くほど室温が下がる。デジタル時代のアナログ対応である。乗務員にも大変な苦労をかけている。

雪月花の車内の座席は、シンプルであるが、ユニークだ。日本海側を向いた座席、カフェテラス風の座席、大きなテーブルを備えた食堂車風のボックス席。そして現在世界唯一の前面展望ハイデッキ個室である。

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