名列車「雪月花」を生んだ男たちの熱いドラマ 理想と現実を両立させるための「極限の戦い」
外から鉄道でお越しになるお客様を想定し、北陸新幹線グランクラスの座席よりも内径が広い。余裕のある専有面積と居住性が確保されている。運輸部門の責任者は運輸部長の竹之内博常務である。とても熱意を持って雪月花の設計にあたっていた。
たとえば雪月花1号車の後列の座席高の、かなり細かい微妙なところで、デザイナーと本気でやり合っていたことがある。そして、落ち着いた先は、本当に微妙なところであった。デザインの意匠を維持しながら施主側の意をくんで乗客の視野のバランスを取る、という最善のところを突き詰めていく作業は、この後も続いた。
雪月花のハイデッキスペースから見える展望は、雪月花の生命線の1つである。この前面展望の確保のために、従前のET122系の運転席とは違う仕様で若干中央に移動する必要が生じた。これについても、常務が特に奮闘してくれた。
最善を突き詰めるために各担当者が奮闘
車両屋と呼ばれる、運転センター内の2人のリーダーも激しかった。いろいろと融通を利かせてくれたし、ともすれば固くなりがちな前例踏襲という岩盤に風穴を開けてくれた。
廣田幸彦車両助役はJR西日本からの出向者であった。出向者の身ではあっても、この雪月花には並々ならぬ情熱をかけてくれた。業者とのやりとりにも大変な神経を遣ってくれていた。仕上がりのレベルが高かったのは、廣田車両助役の功績も大きい。
役人経験者だと、予算単年度主義の原則がこびりつきすぎて、どうしても履行確認日までに事業完了を無理にでも行う癖がついてしまう。レベルの甘さが見られる場合もあるだろう。
民間であれば不備が見つかれば即、直しである。ともすれば無難に、スケジュールどおりに進めていこうとしていた私に、廣田車両助役は仕事の仕上がりに対する厳しい姿勢を思い起こさせてくれた。役所にいてはなかなか味わえない世界である。受注する業者側としては、大変厳しい注文を受けていたことになるのだと思う。
そんな廣田車両助役だが、業者との打ち合わせをする前夜には、発注者側としても緊張し、どのような手段で話をしていくかずっと頭から離れないものだと言っていた。助役の指摘は端で聞いていても正論が多く、業者側も従わざるをえないものがほとんどであった。こういった人に支えられている列車は幸せだと思う。
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