なぜ主要3通貨はあまり動かなくなったのか 新興国通貨がもっぱら下がっている

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

ユーロの名目実効為替相場についてその寄与度を通貨別に要因分解してみると、確かに最大のシェアを占めるドル(米国)に対してユーロは下落している。ここに限ればマイナス0.4%ポイントのユーロ名目実効為替相場の押し下げが確認できる。

だが一方、トルコや東欧通貨などに対してユーロは大きく上昇したため、名目実効為替相場全体で見れば上昇という結果に落ち着いている。

とりわけ対トルコリラの上昇だけでプラス0.6%ポイントと対ドルでの下落を補って余りある状況であり、「新興国からの資本流出によって主要通貨が支えられた」という典型的な構図に仕上がっていると言える。経常黒字を大きく抱える一部のアジア通貨など例外もあるが、現在の為替市場は新興国通貨を忌避し、先進国通貨にシフトする傾向がはっきり出ているように見受けられる。

また、こうした状況が最近、為替市場で膠着が騒がれる理由の1つなのだろう。多くの市場参加者が注目する「先進国 vs. 先進国」の通貨ペアでは方向感が出ない一方、「先進国 vs. 新興国」の通貨ペアでは偏った取引が続けられている。新興国通貨に売りが集中することで、先進国通貨同士の強弱関係が定まりにくくなっている市場環境があると推測される。

もちろん、アメリカ経済が低インフレ・高成長というゴルディロックス状態を続けているのでボラティリティが上がらないという本質的な事もあるだろう。だが、ドル円やユーロドルといったメジャーペアよりも、「新興国の苦境」の方がどうしても耳目を集めやすい環境になっている事が大きい。そして「新興国の苦境」はFRBが利上げを続け、米国と新興国の金利差が詰まる限りにおいて継続する可能性が高い。

現状は2006年や2007年前半に似ている?

問題はこの状況を横目にFRBがいつまで正常化プロセスを続けられるかだろう。米国内のインフレ圧力が看過できないほど大きなものであれば海外経済環境に配慮することなく正常化プロセスを続けることになる。だが、現実はそれほど差し迫った状況にもない。FRBの政策運営が方向転換する契機としてはアメリカ実体経済の失速を予想するのが筋だが、このままいけば新興国市場の混乱となるかもしれない。

主要通貨ペアに方向感が出るのはFRBの政策運営が方向転換する時と考えられる。具体的には「次の一手」が利上げではないという状況になった時、というのが筆者の基本認識である。これまでは米国内外の経済情勢が米国の金利上昇に対して踏ん張りを見せてきたため、混乱は発生していない。しかし、既に一部の国々がこれに耐えられなくなってきている。現在の状況は「大いなる安定」が称賛され、その後の苛烈な調整局面へ入っていった2006~2007年前半の状況に似ている印象も受ける。

※本記事は個人的見解であり、所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事