ホンダ「ビート」がいまだ根強く愛される理由 「S660」に通じる軽オープンの流れつくった

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何より心を奪わせたのは、ミッドシップスポーツカーであることだった。ホンダの軽自動車は、「N360」の発売以来その多くが前輪駆動による合理性を追求した形式を採用してきたが、そもそもホンダが4輪自動車へ参入するにあたり開発したT360という軽トラックは、ミッドシップの後輪駆動であった。それを活用したバモスホンダのように独創的かつ後輪駆動の軽自動車も存在する。合理性を徹底する大衆車の一方で、他に類を見ない独創のクルマを生み出すのもホンダである。その心意気を1990年代に示したのが、ビートといえた。

フェラーリなどの常套手段を軽スポーツカーで実現

ミッドシップであることにより、クルマの前後重量配分は50:50ではなく後輪側が重くなる傾向となり、それによって後輪の負担が増えることから、ビートは前輪と後輪でタイヤ寸法を変え、前輪は小径、後輪は大径の組み合わせとした。それは世界の高性能ミッドシップスポーツカー、たとえばフェラーリなどの常套手段であり、それを軽スポーツカーで実現したことがファンの心を奪った。

軽自動車でミッドシップレイアウトは画期的だった(写真:Honda Media Website)

世界のミッドシップスポーツカーを手に入れるなら数千万円の価格を覚悟しなければならないところ、ビートは軽自動車価格で、しかもオープンカーとして実現したのである。ビートの登場は、衝撃といえた。

しかし、世の中のビートへの評価は当時あまり高まらなかった。同じ年に、スズキから「カプチーノ」という2人乗りスポーツカーが発売され、そちらに人々の目は集まった。

カプチーノは、いわゆるFR(フロントエンジンで後輪駆動)の2人乗りスポーツカーで、ハードトップを3分割することにより、オープン/タルガトップ/Tバールーフの3通りに組み替えることができた。ビートの幌に比べ、ハードトップであることから、露天の駐車場に止める際にも安心であり、耐候性も高いと消費者には好まれた。現在、カプチーノの中古車もビートと同様以上の高値で取引されている。

カプチーノのエンジンは、軽自動車規格内の660ccでビートと同じで、最高出力も自主規制の64馬力と同じだが、こちらはターボチャージャーを備えることにより、発進後に過給による強烈な加速を味わうことができた。ハードトップであることから、車両重量もビートより若干軽く、その瞬発力は誰にもスポーティさを実感しやすかった。ジャーナリストの評論や自動車雑誌の記事でも、カプチーノのほうが面白くて楽しいといった評価があふれた。

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