ホンダ「ビート」がいまだ根強く愛される理由 「S660」に通じる軽オープンの流れつくった

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ビートに比べ、ターボエンジンの加速は胸をすくように速く、車体剛性やサスペンション性能、タイヤ性能の進化により、高度な操縦安定性をS660は実現している。軽自動車でここまで高性能なクルマはほかにないのではないだろうか。それほど高度な仕上がりのミッドシップ軽スポーツカーだ。

技術の進化とクルマの面白さ

一方で、技術の進化が人を感動させにくくしているともいえる。瞬発力という驚きはあっても、手応えを確かめつつ、また自分の運転技量を踏まえつつ、クルマとの対話を楽しむことを求めるなら、S660よりビートのほうが低い速度から実感しやすいのではないだろうか。

もちろん、S660の仕上がりはすばらしく、速度を上げ限界を探りながら走れば、クルマとの対話は可能だ。だが、あまりに高度なため、そこまで速度を上げていかなければS660は、姿こそミッドシップスポーツカーだが日常的には普通に走る乗用車と感じてしまう側面もある。

低い速度域から楽しめるクルマとも言えた(写真:Honda Media Website)

そうしたところがS660に限らず、最新のクルマの多くに当てはまるかもしれない。技術の進化がクルマの面白さを実感しにくくさせているところがあるのも事実だ。

一方で、マツダのロードスターは最新の4世代目で、絶妙な味を完成させている。それは、開発者たちが目指した運転感覚が明確であったことと、スポーツカーの神髄である軽さを徹底的に追求したことにより、日常の速度域でも単なる乗用車ではなくスポーツカーを運転している実感を持てる乗車感覚を実現したからだ。

性能を求めるのではなく、感覚を追求する。それは、機械を完成させる過程で数値によって評価できない難しい注文だ。数値の達成ではないため、一朝一夕にはいかない。しかしマツダは、1989年に初代ロードスターを誕生させて以来30年近くそこを模索し続け、今日なお進化を求め、魅力を探り続けている。

S660は、17年という空白期間を置いて誕生したばかりである。これを20年、30年と続けるなら、傑作の軽スポーツカーに進化することができるだろう。時代や情勢次第でやったりやらなかったりすることは、感性を開発するスポーツカーにおいては致命傷となる。

御堀 直嗣 モータージャーナリスト

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みほり なおつぐ / Naotsugu Mihori

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

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