デカく重く「車の恐竜化」は止められないのか 今やカローラやシビックさえ3ナンバー車だ

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オイルショック後に大幅なサイズダウンを図ったキャデラック・セヴィル

大型・高級化がさらに推し進められる背景として付け加えるなら、メーカー・サプライヤーの努力による自動車の信頼性向上も挙げられる。自動車検査登録情報協会の調査によれば、日本の乗用車(軽自動車除く)の平均寿命は1980年の8.29年から2017年の12.91年へと一貫して伸びており、つまりマーケットは「いいものを長く」使おうという方向に推移している。

これを後押しするのがいわゆる残価設定ローンの導入で、数年後の車両の下取り価格をあらかじめ差し引いておくことで、高価なクルマを少ない元手で入手でき、高級車ブランドの販売を支えている。

高付加価値車からユーザーが離れていく懸念

メーカーも決して自動車の「恐竜化」を放置しているわけではなく、とりわけ軽量化には熱心だ。内燃機関は軒並み排気量をダウンサイジングしているし、車体は一般的な量産車でもグレードの高い高張力鋼板を骨格部に導入するクルマが多くなり、高級車ならボンネット、ドアなどの外板をアルミで覆うのが普通になってきた。

カーボン素材の投入も増え、金属パーツはどんどん樹脂に置き換えられている。高級スポーツカーでブレーキディスクをセラミックにするのも効く。ハーネスを銅線からアルミに置き換えたり、ハイブリッド車やEVにおける動力用バッテリーを軽量な構造にしたりしている。大型車でも小回りが利くように、4輪操舵化する手法も増えてきた。

しかし、こうした努力と投資を経てなお、前述のとおり自動車はどんどん大きく重くなっていく。歴史的にみると、はっきりクルマのサイズが小さくなったのは第二次世界大戦後からの復興期の欧州車と、オイルショック時の米国車に限られる。つまり、相当必要に迫られ、意図的でないかぎりダウンサイジングは図られないということだ。

だがこのままの傾向が続くなら、小型車の実力向上もあり、メーカーの思うがままに大きくて収益性の高いクルマを買うユーザーは、どんどん減っていくのではないだろうか。いまはパワートレイン効率の向上で低燃費の恩恵を受け、エコカー減税やエンジンのダウンサイジングで出費が減るのを喜ぶ高級車オーナーも多いかもしれないが、そういったトレンドが長く続くとも思えない。

アメリカや中国はともかく、日本やヨーロッパの自動車好きがそろって「軽自動車かコンパクトカーでいいんじゃない?」という気分になるより前に、自動車メーカーは抜本的な手を打つべきだろう。

真田 淳冬 コラムニスト

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さなだ きよふゆ / Kiyohuyu Sanada

メーカーはじめ自動車業界に長らく籍を置き、1950年代から現代に至る世界中のさまざまな乗用車をドライブした経験を持つ。歴史、経済、技術といった分野をまたぐ広い知見を買った東洋経済オンライン編集部が独自に著者として招いた。

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