雑談を漫然とする人と好機をつかむ人の大差 成功者だけが知る「雑談」の効能と活用法

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商談の場での「こういう企画を考えたのですが、いかがでしょうか?」という正面切ったものではないので、相手もリアクションしやすくなります。いいものには好リアクションをし、よくないものには「ちょっと興味がないな」とアッサリ却下するなど、相手も本音を表しやすくなります。

YES、NOどちらも言いやすい。思っていることを正直に言いやすい。何を言っても、角が立たない。それが、雑談のいいところです。

正式なオファーであれば、しがらみがあると思っていることを正直に言いにくくなって答えをズルズルと引き延ばしたりすることもあり得ます。ラチが明かなくて、「どうなっているんですか?」と問い詰めたりすると、関係が険悪化しかねない危険性をはらみます。

「こんなのはどうですかね?」と水を向けたとしても、あくまでも仮の提案ですから、ダメ出しされたりNOを言われたりしても、傷つくこともありません。ダメ出しされたら、事前に「改善点をもらった」と考えるべきです。その相手の指摘を取り入れ、なおかつもっとブラッシュアップすれば、正式な商談でOKをもらえる可能性は限りなく高まります。

仕事ができる人は、このように雑談の場を下交渉と言うかリハーサルとして有効活用しています。言い換えると、雑談を仮プレゼンや仮商談として利用しているのです。

雑談で出した仮のアイデアの反応を見て、ブラッシュアップしたものを正式な場で提案をする。このように2段階に分けてアプローチしていますから、いきなりオファーをするより成功率がグーンと高まります。その意味では、抜け目がありません。

人は一度、肯定したことを「否定」できない

ざっくばらんに「こんなのはどうですか?」と提案したことに相手が好反応を示した場合、その成功確率は100%に近くなります。と言うのも、「脳が矛盾を嫌う」からです。

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一度「いい」と言ったことに対しては、後から「あれはよくない」とか「本当は嫌だった」と撤回しにくいものです。本来は拘束力もない雑談の場で、「いいんじゃない」と軽く言ってしまったら、正式な商談の場でオファーされてもやはり「いいですね。それにしましょう」とOKを出します。脳は意外と律儀です。

私の場合も雑談中に「(キャスターに)興味がある」と言った手前、正式に打診されたときには「これはやらなければいけない仕事だな」と悟って、NOを言いませんでした。引き受けたら「忙しくなる」のはわかっていましたが、NOを言おうとすると、もっともらしい断る口実を考えなければならなくなります。

脳は、そんな面倒くさいことを嫌がります。意外と単純なのです。

茂木 健一郎 脳科学者

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もぎ けんいちろう / Kenichiro Mogi

1962年東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文藝評論、美術評論などにも取り組む。2006年1月~2010年3月、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」キャスター。『脳と仮想』(小林秀雄賞)、『今、ここからすべての場所へ』(桑原武夫学芸賞)、『脳とクオリア』など著書多数。

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