「パワーとトルク」今さら聞けない基本の基本 どちらもエンジンの力を意味する概念だが

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パワーは、出力と訳され、意味は一定時間にどれくらいの仕事が行われるか、仕事の効率を表す。単位は、kW(キロワット)やPS(馬力)で示される。馬力という表現が使われる理由は、1頭の馬でどれくらいの荷物を曳(ひ)いていくことができるかという仕事の効率を表したことにはじまる。

仕事の効率というと、クルマには関係なさそうに感じるが、一定時間でどれだけ遠くへ行けるかと考えればわかりやすい。それはすなわち、速度(スピード)に直結する。速度の表示は、km/hと書く。1時間(一定時間)で何キロ先へ到着できるかということだ。

高い速度を出せるクルマは、1時間でより遠くへ行くことができ、速度の低いクルマは1時間経ってもあまり遠くには行けない。1時間でどれくらいの成果を出せるかは、仕事の効率と考えてもいいだろう。なので、パワーは仕事率(仕事の効率)というのだ。

パワーの大きいクルマは、高速で走れる。

トルクの話を加えると…

ここでトルクの話を加えると、トルクの小さなエンジンは発進の出足が鋭くなくても、高回転で回せるなら最終的に最高速は高くできる。パワーは仕事率だから、小さなトルクでも一定時間にたくさん仕事をこなせば、一定時間後の成果は、大きなトルクを出すが高回転で回せないエンジンと同等に出せるというわけだ。

近年、ガソリンエンジンとディーゼルターボエンジンが、それぞれ高性能車に搭載されるゆえんはそこにある。

トルクが大きく、パワーも出せるのがモーターだ。

モーターは、電気が流れることにより生まれる磁力で軸を回転させる。電気は、エンジンの燃焼と違って瞬時に高い電力を供給できるので、低い回転数で大きなトルクを出せる。また、電流や電圧を高くしていけば、高回転へ回していくこともできるので、パワーも出しやすい。

ことにモーターはトルクが大きいため、ごく普通の乗用車用として使われるものでも、エンジン車のスポーツカーのような出足のよさを実現することができる。

一方、電気自動車はエンジン車のように変速機を持たない場合が多いので、最高速度はそれほど高くないのが実情だ。より高回転で回せるモーターが開発されたり、電気自動車でも2段変速ほどの変速機を持ったりするようになれば、最高速を伸ばすことはできる。

リチウムイオンバッテリーが登場するまで、バッテリー性能の低さによって進化が滞っていた電気自動車だが、リチウムイオンバッテリーの実用化と量産化が進むことにより、エンジンに比べ振動も騒音も少なく、なおかつ発進加速だけでなく高速走行においても、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンをしのぐ潜在能力を発揮しはじめている。

トルクとパワーは、動力源の特徴をその数字によってある程度教えてくれる数値である。一般的にトルクとパワーは、その最大値を発生する回転数をあわせて表記している。発生回転数を示すことによって、性能特性を推し量るうえでより役立つ。日常的な運転では、トルクの数値やその発生回転数が、発進・停止を繰り返すような交通状況での運転のしやすさにつながることは覚えておいて損はない。

御堀 直嗣 モータージャーナリスト

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みほり なおつぐ / Naotsugu Mihori

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

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