黒田日銀はこれから窮地に陥る可能性がある 実質は「利上げ」「株買い入れ縮小」政策?

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しかし、日銀の政策決定文や黒田東彦総裁の記者会見の話をよく聞いてみると、まったく別の事実が明らかになる。

イールドカーブコントロール、要は長期金利ターゲットだが、この10年物国債金利の上限が0.1%から0.2%に切り上げられた。変動幅の拡大と説明しているが、要は0.1%の利上げである。国債の買い入れ額は、80兆円をメド、という言葉を使いながら0.1%を上限として、できるかぎり買い入れ額を縮小しようとしてきたのが、これまでの政策である。それが0.2%になるのだから、利上げ以外の何物でもない。

実際、ヘッジファンドの一部はこれを理解し、翌日には10年物国債先物に仕掛けてきて、金利は8月1日には0.115%まで上昇。翌2日はさらに上昇している。

一方、株式の買い入れ、ETF(上場投資信託)とJ-REIT(不動産投資信託)のほうについては、日経225とTOPIXの配分額の変更がどちらかというと話題になっている。

日銀は今後窮地に立たされる可能性がある

だが、最も重要なのは、「資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買い入れ額は上下に変動しうるものとする」という文言である。つまり、柔軟化ということであるが、国債の80兆円の柔軟化とは、要は額を減らすことであったから、ETFとREITも柔軟化とは、額をできるかぎり減らすことであり、すなわち、株式買い入れ額の事実上の縮小である。

これらの措置の市場へのインパクトを限定的にするために、金利のフォワードガイダンスという保険をかけて、市場を鎮めたわけだが、逆に言えば、鎮める必要があるぐらい、はっきりとした緩和縮小政策の実弾を打っているということである。さらに、政策決定文のタイトルをわざわざ「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」と銘打ったのである。

市場は、間抜けにも(あるいは確信犯かもしれないが)、今後、長期金利の0.2%への上昇、およびETF買い入れ額の減少という2つの事実に気づき、(わざと)騒いで、「日銀のだまし討ち」と非難するだろう。そして、市場は混乱し、日銀はそのときに窮地に立たされる可能性がある。

まずは、ヘッジファンドは長期金利0.2%を試してくるから、ここの戦いが始まる。その次は株式市場となる。

実は、次回(9月18~19日)以降の政策決定会合が本当の日銀の正念場なのである。

小幡 績 慶応義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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