想定外の暴雨は「賢いダム活用」で対処できる 異常気象に向け強靭で安全な国土構築を急げ

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要は、大雨の初期ではなるべくダムに貯留せず、ダムの空容量を確保する操作を行います。大雨の後期では、次の台風が来ない限り、ダムに水を貯留して、その水を最大限に利用していく操作です。

今は特定多目的ダム法によって「個別ダム基本計画」でダム操作が定められています。60年以上も前に策定された操作規則の原則があり、機動的な運用ができません。でも、法改正でこのような機動的運用ができるようになれば、国交省の後輩たちは既存ダムを容量調節で最大限利用することができます。

なおかつ、『水力発電が日本を救う ふくしまチャレンジ編』で述べたように、貯水量を水力発電などで最大限利用できるわけです。

嵩上げすれば、低コストで貯水量を増やせる

方法2:既存ダムの嵩上げ

しかしながら、以上のようなダム運用は、気象予測の精度に基づくため、その効果の範囲は限定的です。ところが、新しいダムを造るのと同じ効果がある決定的な方法があります。それは既存ダムの嵩上げです。

ダムは上部に行くほど面積的に大きく広がっています。このため、夕張シューパロダムの嵩上げの例では、元々67.5mの高さだったのを43.1m嵩上げして110.6mにしたところ、貯水量は8700万㎥から4億2700万㎥に増えました。新たに3億4000万㎥ものダム容量が生まれたわけです。

この既存ダムの嵩上げの建設費は、新規ダムを建設するのに比べ圧倒的に低くなります。なぜなら、ダム水没にかかわる補償費は支払い済みだからです。ダム建設事業費の約5分の4は、水没補償や、付け替え鉄道、付け替え国道などのダム水没に関連する対策費なのです。既存ダムの嵩上げは、それが免除されるので工事費は圧倒的に安くなるわけです。

なお、既存ダムの嵩上げは、すでに多くの実績があり、嵩上げ技術も確立されています。

既存ダムの嵩上げにより、新たな莫大な貯水容量が生まれます。その貯水容量を利用して、降水を貯め込む治水容量とすることができます。

狂暴な大雨が襲ってきても、この手法を用いれば、日本国土の安全性ははるかに向上していきます。

しかも、そのメリットは治水面だけにとどまりません。利水面でも、運用変更と同様、水力発電のための容量に利用できます。もちろん、異常な渇水への備えにもなります。下流の水道、農業用水などへの補給のための利水容量とすることもできます。

ダムの運用変更、既存ダムの嵩上げは、未来の狂暴化する気象に対して最も素早く対応できる有効な手法といえます。水力発電増強など利水面でも大きな恩恵を日本にもたらします。既存ダムは日本国民の貴重な財産となっていくわけです。

竹村 公太郎 元国土交通省河川局長、日本水フォーラム代表理事

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たけむら こうたろう / Koutaro Takemura

1970年東北大学大学院土木工学修士課程修了、同年、建設省(現・国土交通省)入省。中部地方建設局河川部長、近畿地方建設局長を歴任し2002年国土交通省河川局長を最後に退官。2004年リバーフロント整備センター理事長。2014年同研究参与。2006年日本水フォーラム代表理事・事務局長。著書に『日本文明の謎を解く』(清流出版、2003年)、『土地の文明』(PHP研究所、2005年)、『幸運な文明』(PHP研究所、2007年)、『本質を見抜く力(養老孟司氏対談)』(PHP新書、2008年)、『日本史の謎は「地形」で解ける』(PHP文庫、2013年)など。

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