教育現場を変革する「新幹線学」とは何なのか 子供たちが目を輝かせ、大学で導入の動きも
世界が「7分間の奇跡」と称賛した新幹線の車内清掃は、ハーバード大学の教材になったことでも知られているが、小学生向け教材にも活用されている。「清掃スタッフはなぜ新幹線におじぎをしているのか」「荷物棚を鏡で見ているが、何をしているのか」。創意工夫の必要性や日本が世界に誇る「おもてなし力」を子供たちがディスカッションする授業は、マイケル・サンデル教授が教える「ハーバード白熱教室」の子供版といっても過言ではないだろう。
こうした地理や理科の授業、小論文だけではない。谷教授は、「発達障害のある子供には、さらに効果がある」と指摘する。集中できない、コミュニケーションが苦手といった特徴を持つ発達障害の子供でも、この教材を使えば授業に集中するという。
谷教授の構想は広がる。英語の授業に新幹線を活用できないか。日本の産業の強みも子供たちに伝えたい。「“新幹線教材”はさまざまな方向に発展する可能性を秘めているのです」
大学では新幹線開業効果を分析する試みが
大学でも「新幹線学」を提唱する動きがある。耳慣れない言葉だが、列車を高速走行させるといった工学的なものではなく、新幹線の開業が地域にどのような環境変化を及ぼすのかを定量的・定性的・構造的に分析するという試みだ。提唱するのは、東洋経済オンラインで「新幹線は街をどう変えるのか」を連載する櫛引素夫・青森大学教授である。
これまで整備新幹線の開業をめぐっては、時間短縮効果、鉄道利用者数の増加、地域間の流動量の増減、観光地への入込客の増減、これらに基づいた地域への経済波及効果などが評価の主な指標となってきた。線路などの施設を保有する国土交通省所管の鉄道建設・運輸施設整備支援機構は開業5年目に大がかりな事後評価作業を行っている。
この事後評価により、「多くの情報と示唆が得られたものの、個別の地域に及んだ利益と不利益やまちづくりの進展、地元住民のマインドなどについては、何を指標にどう評価するべきか、フォーマットが必ずしも確立されていない」と櫛引教授は話す。新幹線整備の構想を持つ地域では、自治体、経済団体、観光関係者などがそれぞれの立場からさまざまな行動や検討作業を試みているが、「人口減少の影響も織り込んだ、緻密かつ網羅的な新幹線へのアプローチは必ずしもまだ存在していない」(櫛引教授)。
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