「イタリア鉄道」フランス殴り込みで汚名返上 「遅れる・汚い」印象を払拭できるか

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ところで、オープンアクセス法が施行される前後、1990年代から2000年代初頭へかけて、イタリアはEUの鉄道業界の中ではかなり疎んじられた存在だった。

かつて、国境を越えて運行される国際列車は乗り入れ相手国との共同運行が一般的で、客車列車の場合は機関車もそこでつなぎ替えられた。

だが当時、イタリアから乗り入れてくる車両は故障が多く、またお世辞にもきれいとは言いがたかった。逆に、乗り入れ相手国の車両がイタリアへ乗り入れると、戻ってきたときには落書きだらけになっていることもあった。それに加え、イタリアと直通運転している列車が慢性的に遅延することで、相手国内にもその遅延の影響が及んでいた。欧州の中では比較的時間に正確と評判のスイスですら、イタリア方面の国際列車と、その列車が走行するルートだけは、常に遅延の温床と化していた。

前述の車両メンテナンス不備に加えて定刻運行が難しいという、あまりにひどい状況に業を煮やしたスイス国鉄は、イタリアとの間を結ぶ特急列車を運行する目的で設立した運行会社、チザルピーノ社を解散、ついにイタリアとの共同運行を中止するという決断を下した。

かつての印象を払拭できるか

パリ北駅に並ぶタリス(左奥)とTGV(右手前)。いずれここに、イタリアのフレッチャロッサが並ぶ日も来るのだろう(筆者撮影)

このスイスの事例を筆頭に、一時期はほとんど鎖国のように、イタリアと周辺国との乗り入れが次々と中止されていった時期があった。しかし2010年頃より、イタリア側による遅延解消や落書き問題への取り組みに効果が表れたことで、近年は以前と比較すると状況は改善されている。

鉄道事業の改善を着々と進め、信頼回復に努めてきたイタリア。いい加減なサービスと慢性的な遅延、故障が多く、古く落書きだらけの車両という、それまでのイタリア鉄道に対するイメージは決して芳しいものではなかった。悪い印象は簡単に拭い去れるものではないが、それを少しでも払拭することが、他国での成功にもつながると言えよう。

はたしてイタリアは、まもなくスタートするであろうフランスでの事業を成功に導くことができるのか、その真価が問われる。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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