財政の「ゆでガエル状態」は、どれだけ危険か 最後は増税しても社会保障費削減の悪夢に

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経済成長や物価上昇ペースが鈍れば、日銀が展開する異次元緩和の縮小時期は先送りされることになる。前回試算では、2019年度までゼロ%の長期金利が続く前提だったが、今回の試算ではそれが2020年度まで延長される前提に変更された。その結果、長期金利上昇による国債費(利払い)の増加が抑制される。これにより、新たな借金増ペースが鈍化するので公的債務等残高(対名目GDP比)が前回試算より改善したわけだ。

このように、ほどほどの経済成長率を維持していれば、日銀の異次元緩和とセットとなることで、公的債務等残高(対名目GDP比)の面では2020年代もぬるま湯の状態が続きそうだ。

仮に、一時的な景気後退があったらどうか。それはそれで、リーマンショック時のようにいったん財政健全化目標は棚上げされ、財政出動などが行われるだろう。日銀は国債など資産購入を含めて金融緩和を強化し、ゼロ%(かマイナス%)に金利は釘付けにされる(一段の緩和の余地は小さいが)。

長期金利が上昇すれば危機が始まる

結局のところ、ゆでガエルが出来上がるのは次のうちのどちらかだ。日銀が力説するように、異次元緩和を続け、経済の体温を上げていけば、いずれどこかで物価は上昇し始める。そのとき異次元緩和は出口に向かわざるをえず、長期金利の上昇が始まる。それにより、国債費(利払い)がジワジワと増加し、公的債務等残高(対名目GDP比)は上昇に転じていくことになる。

もう一つは、何らかの外的ショックで、日銀の緩和にもかかわらず長期金利が上昇したときだ。きっかけとしては、日本の経常収支の赤字化、日本から他国への資金流出、ドル金利上昇の影響などが考えられるが、現時点では予想がつかない。

日本のゆでガエル状態の長期化は、将来の財政破綻の規模をどんどん巨大化させる。早く負担増に舵を切り、負担増と社会保障維持を確保するか、あるいは、気づいたときには、膨大な利払いに追われ、増税と社会保障費削減の悪夢を余儀なくされるか。政府や日銀がぬるま湯状態から脱却しようとしない中、国民はこのことに気づくだろうか。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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