小田急ロマンスカー「LSE」38年の豪快な疾走 定期ダイヤでの運転終了、年度内に引退へ

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生方さんは、LSEの登場から引退までの間に、新宿―小田原間60分運転が実現するとは「思っていなかった」と笑う。だが、今年3月のダイヤ改正では、複々線化の完成によってついに新宿―小田原間を59分で走破する特急が登場した。

実際に乗ってみて感慨深いものがあるという生方さん。「さらに欲を出すと、あれなら55~56分でも走れるんじゃないかと。複々線区間は踏切がないんだからもっと飛ばしたっていい。日本全体の鉄道の一つのモデルケースとして、130キロや160キロにスピードアップして55分運転をやってもらいたい」と、技術者の視点でさらなる発展を期待する。

ロマンスカーはその利用者層も変化してきた。LSEの登場時には「まだまだ観光客の利用が主体だった」というが、今では年間に約1315万人(2016年度)という特急利用者の多くは通勤客をはじめとする沿線利用者だ。LSEの定期運転ラストとなった列車も、箱根行きの観光特急ではなく通勤利用者向けの「ホームウェイ」片瀬江ノ島行きだった。

「これだけ便利になったので、もっと大衆化していいと思うんですよ。前に、藤沢からベビーカーのお母さんが乗ってきて大和(所要時間約15分)で降りるのを見たんですね。というのは、ベビーカーだと一般の列車ではなかなか座れないが、特急なら余裕を持って座れるから。そういう意味では、ベビーカーのお母さんなんかにもっと気軽に乗ってもらえるような方法を考えてほしい」。生方さんは、今後のロマンスカーの理想像についてこう語る。

平成の終わりとともに

7月10日に新宿駅で行われたセレモニー。運転士やアテンダントらに花束が贈られた(記者撮影)

戦後復興の中で技術の粋を集めて登場したSE、高度成長期のレジャーブームを反映したNSEの後継車として、社会が成熟する中でゆとりや高級感を重視して誕生したLSE。7月10日に定期運用を外れたあとは臨時列車などに使われる予定だが、2018年度中には引退するという。

小田急は海老名駅(神奈川県海老名市)の隣接地に博物館「ロマンスカーミュージアム」を2021年春に開設すると発表しており、LSEもほかの歴代ロマンスカーとともにここに保存される予定だ。

38年の長きにわたって、様変わりする沿線や社会環境の中を走り続けたLSE。構想から半世紀を費やした複々線が完成し、小田急が新たな時代を迎える中、伝統のカラーをまとった特急は、平成の終わりとともにその長い歴史に幕を下ろすことになる。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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