山手線の「兄弟」を続々と生むメーカーの実力 JR東日本の子会社、「通勤車両」で得意技光る
日本の鉄道車両メーカーの海外展開では、2015年にイタリアの鉄道メーカーや信号メーカーを買収した日立が規模の面で一歩リードしているが、歴史を振り返ると、1994年に東急車輛が日本初となる欧州向け完成旅客車アイルランド国鉄「2600クラス気動車」を輸出、2000年にも同国鉄向けに「8520クラス電車」を輸出している。「今もピンピン走っています。故障が少なく、現地では非常に評判がいい」(宮下社長)。
東急車輛時代にはシンガポールやベトナムの鉄道事業者にも納入実績があったが、2000年台半ば以降は海外展開に消極的だった。J-TRECになってから、再び海外へのチャレンジを始めた。
2016年に開業したタイ・バンコクの都市鉄道「パープルライン」。この路線を走る車両もサスティナのラインナップに含まれる。国内向け車両よりも一回り大きい上、客先の要望による仕様変更も多く、日本のサスティナと同じとは言いがたい。ただ、サスティナに海外での実績が加わったことで、今後の海外展開へのはずみになるのは間違いない。宮下社長は「アジアの都市鉄道と欧州のニッチ案件に絞って、受注活動を行っている」と言う。
高速鉄道にも意欲
高速鉄道の海外展開についてはどのような方針を取っているのだろうか。JR東日本は目下、インド・ムンバイ―アーメダバード間の高速鉄道に全力を注ぐ。新幹線「E5系」をベースとした車両の導入が決まっており、E5系を製造した川重と日立の2社が製造を担うことが確実視される。J-TRECが受注する可能性について、宮下社長は「手伝ってくれと言われれば手伝うのはやぶさかではないが、今のところ当社に声はかかっていない」と語る。ただ、インド以外にも高速鉄道プロジェクトは世界各国で目白押しだ。「いつの日か、よい案件があれば、高速車両にチャレンジしたい」(宮下社長)。
海外の鉄道プロジェクトでは、車両だけでなく信号などの設備の設計・建設、保守までパッケージで請け負う「ターンキー」という契約形式がある。
アルストムやシーメンスといった海外大手メーカーが独壇場としてきた市場で、日本勢で対抗できるのは、M&A(企業の合併・買収)によってターンキー・プレーヤーとしての実力を身に付けた日立くらいだ。車両製造専業のJ-TRECの出る幕はない。また、規模でも、売上高が1兆円に迫る海外大手や同5627億円(鉄道ビジネスユニット、2018年3月期)の日立と比べ、J-TRECは10分の1以下で大きく見劣りする。
しかし、JR東日本と一体で考えれば、これらの見方は大きく変わってくる。JR東日本はインド高速鉄道に加え、英国ウェストミッドランド路線の鉄道運行、インドネシア通勤鉄道会社の車両保守支援など海外鉄道プロジェクトに積極的にかかわっている。今後も海外事業をさらに拡大する意向だ。
世界最大級の鉄道事業者であるJR東日本の運行管理や保守のノウハウを使うことで、J-TRECの足りない部分を補うことができる。将来の世界の鉄道業界地図は現在と様変わりしている可能性がある。
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