当時、全国ネットで実況を務めた福島テレビの元アナウンサー高橋雄一さんはこのレースのことをはっきりと覚えている。「ターボエンジン全開」というフレーズが3回出てくる。「当時の車を意識して出た言葉だった」と振り返る。
1回目は1コーナーを回ったあたりで「ここでも速いとは思っていた」という。2回目は3コーナーから4コーナーに差し掛かるところ。「1000m通過が57秒台というのがわかっていたしどう見てもペースが速すぎた。後続が一気に来て、ゴール前はぐちゃぐちゃになって波乱になるんじゃないかと思った。ツインターボは大丈夫なのかと。そんな気持ちだった」
実況のプロでもそう思うような玉砕的な逃げだった。
ターボエンジン全開を見せたツインターボ
しかし、勢いは落ちない。
直線に向いて中舘騎手はムチを入れて追った。のちに宝塚記念2着、有馬記念4着とGⅠで好走する2番人気のアイルトンシンボリ、1番人気ダイワジェームスが追ってきた。
ツインターボは最後の力を振り絞った。終わってみれば4馬身差圧勝。圧巻の逃走劇で場内は熱狂に包まれた。実況した高橋さんはゴール前で3回目のフレーズを叫んだ。
「全開だ、ターボエンジン。逃げ切った」
1分59秒5は初めて2分を切る七夕賞のレースレコード。ツインターボはラジオたんぱ賞以来2年ぶりの重賞2勝目で夏の福島競馬の重賞2レース完全制覇は初の快挙となった。
1着⑯ツインターボ(牡6 美浦・笹倉)1分59秒5(55中舘)
2着①アイルトンシンボリ(牡5 美浦・畠山重)4馬身差(56田中勝)
3着⑨ダイワジェームス(牡5 美浦・秋山)2馬身半差(55蛯名)
中舘騎手にとってはうれしい重賞2勝目となった。
もともと先行馬で巧みな騎乗を見せることに定評があったジョッキーだが、この七夕賞以降「逃げの中舘」のイメージは完全に定着した。ツインターボとのコンビは実は23戦中6戦だけ。それでもツインターボと中舘のコンビは長く語り継がれている。まさに七夕賞は一期一会だった。続くオールカマーではライスシャワー、シスタートウショウらのGⅠ馬を従えて堂々の逃走劇を見せた。このときの逃げは1000m59秒台。
レース後にパトロールフィルムを見た中舘騎手は「そんなに速くないのになぜ後ろは追って来なかったんだろう」と思ったという。この七夕賞の強烈な逃げがあったからこそ、後続の騎手はハイペースと感じて追い掛けることができなかったのだ。
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