「自動車革命」は日本半導体のカミカゼになる 「ソニー、東京エレク、東芝」巨大投資の背景

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これを達成する牽引役は、まずはEV、燃料電池車をはじめとするエコカー、自動運転車、コネクテッドカーなどすべての次世代自動車向けにあるだろう。黄金武器であるCMOSイメージセンサーをガンガン搭載させる戦略を一気に推進していくことになろう。

ニッポン半導体の盟主「東芝」も岩手新工場など巨大投資

何かと話題の東芝メモリも巨大設備投資の戦いに踏み込んでいる。主力の四日市工場には1兆5000億円を投じるY6棟が建設中であり、本格稼働の日に向け準備に余念がない。これに続きY7棟も四日市に建設されると言われている。より注目を集めるのは岩手県北上の新工場計画であり、K1と呼ばれる第1期棟のスケールは延べ20万平方メートルと、とてつもなく巨大な新工場となる。

7月に着工する予定であるが、サプライズなことにミラクルスピード立ち上げをすると聞いている。突貫工事に次ぐ突貫工事で2018年末には建屋を完成させ、2019年3月にはすべて装置の搬入を終えるというのだから、ただごとではない。すなわちこれだけの巨大工場を、2018年7月の着工から1年も経たずに本格稼働させようというのだ。

これにはたぶん裏があるだろう。周知のようにデータセンター向けに巨大な需要が生まれるというフラッシュメモリーは、現状でたかだか4兆円程度の市場であるが、将来的には4~5倍に膨れ上がると言われている。

世界トップシェアをもつサムスンはここにきて歩留まりをぐんぐんと向上させ、48層に次ぎ64層も相当の勢いで量産している。サムスンの現状における世界シェアは40%くらいにはなっているだろう。これに対して東芝/ウエスタンデジタル連合の世界シェアは30%強くらいに落ちていると思われる。

こうなれば勝負は次世代の96層~128層(東芝は144層をやるとも言われている)にステージが移っていく。東芝が岩手のK1棟立ち上げをメチャメチャに急ぐのは、何としても96層~128層で最先行し、サムスンをたたきたいとの意思の表れと見ることもできるのだ。

一方東芝ではメモリーばかりが話題になるが、東芝本体に残っている半導体にも注目する必要がある。今後は車載向けのディスプレー制御コントローラー、オーディオIC、パワーアンプ、パワーデバイスなどを強化していく。

とりわけすごいと思われるのは車載カメラが検出した画像データを分析して画像として出力するための画像認識プロセッサーであり、これは世界トップを走る。

東芝デバイス&ストレージの社長は「2~3年内に現在8000億円の売り上げを1兆円までもっていく」と明確に答えているのだ。前記のフラッシュメモリーについてもスマホ、データセンターに続くアプリはやはり車載向けのエッジデバイスに期待するとしている。

2000年以降に本格化したIT産業においては、日本企業は見るも無残に後退していった。しかして、IoT時代を迎え日本勢の逆襲が始まったとみてもいい。それを表す出来事としては日本半導体29社の設備投資は2017年度に60%増となり、10年ぶりに1兆円を突破したのだ。

東芝やソニーの大型投資に加え、ルネサスも投資額を880億円としている。日亜化学は半導体レーザー新棟を建設している。富士電機はSiCパワー半導体を中心に総額500億円くらいの投資を準備している。ロームもまたSiCパワー半導体増強に総額600億円の投資を積み上げていくという。

半導体デバイスと半導体装置の両面から、昇竜ニッポンの復活が本格的に始まったといえるだろう。

泉谷 渉 ジャーナリスト

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いずみや わたる / Wataru Izumiya

株式会社産業タイムズ社代表取締役社長。神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。1977年産業タイムズ社に入社、1991年に半導体産業新聞を発刊、編集長に就任。現役最古参の半導体記者としてキャリア35年を誇る。日本半導体ベンチャー協会理事としても活躍。主な著書に『これが半導体の全貌だ!』『これがディスプレイの全貌だ!』(以上、かんき出版)、『ニッポンの素材力』『ニッポンの環境エネルギー力』『1秒でわかる!半導体業界ハンドブック』『1秒でわかる!先端素材業界ハンドブック』『素材は国家なり(共著)』(以上、東洋経済新報社)、『日の丸半導体は死なず』(光文社)、『100年企業、だけど最先端、しかも世界一』(亜紀書房)などがある。

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