東京駅「日本百貨店さかば」の斬新な仕掛け 主役は「丸亀市」と「西伊豆町」の生産者
確かに日本百貨店では、鈴木氏が作り上げてきた人間関係がなければ、販売できなかった商品も多いようだ。ヒット商品であるブリキのおもちゃは、東京都内のある職人が跡継ぎもなく細々と作っているものだそう。そうした、優れているが広く知られていない産業を発掘し、次世代に残すのが究極の目的だ。
「うれしかったのが、うちで初めて売り出したつまみかんざしの職人さんが『弟子ができた』と報告に来てくれたこと。そのままだとすたれてしまっていたかもしれない1つの技術を残せたということですから」(鈴木氏)
日本百貨店は2010年に創業。現在、上野御徒町や秋葉原、横浜など、観光の拠点となる駅をメインに7店舗を展開する。もちろん、東京駅内にも出店している。扱う商品は食品、雑貨を合わせて約2万5000種類。年間70万人が訪れ、年間15億円を売り上げている。「将来的にはニューヨークに出店するのが夢」(鈴木氏)だ。
飲食店業態のほうは、ランチと夜間を合わせ日に約150人で、まだまだお客を増やしたいところ。客単価は夜間が4000円程度。お客にとってはうれしい金額だが、こだわりの食材を使っているため原価率がかなり高く、運営上では厳しい数字だそうだ。参加費5000円の異業種交流イベントは盛況のようで、6月5日に行われたイベントには約100人が集まったという。
あえて不利な立地を選んだ理由
1つ、集客のうえでネックと言えるのが立地だろう。同店は2001年にオープンした複合施設、パシフィックセンチュリープレイス丸の内の地下1階ショッピングモール「グランアージュ」内に位置する。東京駅八重洲地下街と連結しているのだが、地下街の有楽町方面の先端に当たるため、東京駅八重洲口からはかなり距離がある。外が見えないため方向がわかりにくく、また連結部の構造が入り組んでいるので迷いやすい。集客面では一見、不利な立地であるが、鈴木氏がここを選んだのには理由があった。
「もちろん便利な場所はテナント料が高額なので難しいという理由も大きいです。ただ、東京駅改札付近にバーンと構えるのがいいのかというと、『違う』と感じました。便利な場所にあるからではなく、お客様にうちを目指して来てもらえるほうがいい。わざわざ『あそこに行きたい、あそこに行けば出会いがある』と。迷いながらやっとたどり着いて、『迷ったよ』『わかりにくいね~』というのが、スタッフとの会話のきっかけになりますよね。うちに来ることで、あたかも旅をするような体験をしてもらいたいんです」(鈴木)
確かに、迷路のような地下街は一種の非日常的空間。歩き回っていると異世界に来たような気持ちになる。そして、やっと目指す店についたときにはホッと気が緩んで、スタッフや周囲の人と話したい気分になっていそうだ。
今はスマホのGPS機能などの存在で、旅をしていても、道に迷ったり、電車を乗り逃がしたりといったムダな体験をすることはあまりなくなっている。ただかつては、そうしたハプニングも旅のおもしろみの1つだった。
道に迷うことも含め、余裕を持って楽しめる。苦労して得た経験だから価値がある。そんなふうに日本百貨店さかばでゆったりした時間を過ごしてもらいたいというのが、鈴木氏の思いのようだ。現に、スタッフとのコミュニケーションが多いからか、お客の滞在時間は長いほうだという。
地下街探検を兼ねて、旅気分を味わいに行ってはいかがだろうか。
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