「人口が減ると経済はマイナス成長」は本当か データが示すのは、それとは異なる姿だ

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百聞は一見に如かず。人口が減り始めた現在の日本経済の実績を見ることにしよう。厚生労働省社会保障審議会・年金財政における経済前提に関する専門委員会(2017年10月6日)の資料にある過去20年間(1996-2015)の「成長会計」の結果は次のとおりだ。

「成長会計」というのは、実質GDPの成長率を資本投入・労働投入と、それでは説明できない残差としての「全要素生産性」(Total Factor Productivity、頭文字をとりTFP、通常イノベーションないし技術進歩を表すものと解釈されている)、3つの要素それぞれの貢献に分解する手法である。

重要なのはやはりイノベーションだ!

さて、結果をみると、1996年から2015年まで、この間には1997~1998年の金融危機、2008年のリーマン・ショック、2011年の東日本大震災などさまざまな出来事があった。にもかかわらず、20年間の平均成長率は0.8%、そのうち資本投入の貢献分が0.2%、労働投入はマイナス0.3%であり、TFPの貢献が0.9%となっている。

注目されるのは、労働投入の貢献分マイナス0.3%である。この期間、人口は減り始め、それに先立ち労働力人口は減少してきたから、労働の貢献は0.3%のマイナスになっている。しかし、TFP(イノベーション)の貢献0.9%により日本経済は年々0.8%ずつ成長した。人口が減っているから1人当たりに直せば、1%を超える。人口減少それ自体はマイナス要因だが、先進国の経済成長にとっていちばん重要なのは、やはりイノベーションなのである。

吉川 洋 立正大学経済学部教授

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よしかわ ひろし / Hiroshi Yoshikawa

1951年生まれ。東京大学経済学部卒業、イェール大学大学院経済学部博士課程修了(Ph.D.)。ニューヨーク州立大学経済学部助教授、大阪大学社会経済研究所助教授、東京大学経済学部助教授、東京大学大学院経済学研究科教授を経て、2016年4月から現職。社会保障国民会議(内閣官房)座長、内閣府経済財政諮問会議議員、財務省財政制度審議会会長、日本経済学会会長などを歴任。専門はマクロ経済学、日本経済論。『人口と日本経済』『高度成長 日本を変えた6000日』(中央公論新社)、『マクロ経済学』(岩波書店)『デフレーション』(日本経済新聞出版)など著書多数。サントリー学芸賞、第1回読売吉野作造賞などを受賞。2010年には紫綬褒章を受章した。

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