老舗の「東京會舘」、建て替えで始まる大改革 19年1月開業の「新本館」は何を守り、変えるか

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一方で競争が激しいレストランは、店舗数や面積を圧縮。看板レストランのプルニエでは従来の伝統的な料理と一緒に、松本シェフが作る新しいメニューも導入する。

また、より手頃な価格のオールデイダイニング「ブルーテラス」や外国人の接待や観光客のニーズにあわせた鉄板焼き「會」(かい)といった業態を開発したり、旧本館で人気のあった「ロッシニ」やバー、会員制レストランも運営を続けることで、従来の顧客層を守りながら、若年層や外国人などの新規顧客の開拓を狙う。

渡辺訓章社長は2014年の建て替えが決まった頃から、外部のノウハウを導入する方針を固めていたと話す(記者撮影)

とはいえ、本当に問われるのは新本館開業後の成長戦略だ。建て替え前の2005~2014年度の10年間の営業CFの累計は43億円。今回の建て替え費用の負担である約200億円を早期に回収するには、旧本館時代を大幅に上回る収益をたたき出す必要がある。

参考になるのが1960年に東京會舘から分社独立したパレスホテルだ。同社は2012年に東京本館を建て替え後、客層を変えて単価を引き上げたり、オフィスを増やしたことで不動産賃貸収入が安定的に稼ぐようになった。現在では300億円強の売上高に対し、営業利益で50億円を超える水準を稼ぎ出す、優良企業だ。

守るものと、変えるもの

東京會舘は高収益の宿泊部門を持たず、賃貸にまわす新本館のスペースも限られるため、パレスホテルほどの劇的な収益改善は見込みづらい。主力の宴会も1990年代に比べ「大幅に単価が下がっている」(都内のシティホテル関係者)。

実際、東京會舘の売上高は1991年度の210億円をピークに、近年では100億円超に縮小。営業利益も数億円で停滞していた。2019年3月期は建て替え費用がかさむため、営業赤字40億円(前期は15億円の赤字)と損失が膨らむ見通し。「開業後の宴会の受注は順調だ。2019年の株主総会までには中期経営計画を公表したい」(渡辺社長)。

渡辺社長は「守るべきところは守り、変えるべきところは変えて行く」と強調する。とはいえ、あまりに性急な改革は、時として揺り戻しを伴う。

はたして大改革は成功するのか。法人宴会とレストランで従来の顧客層を守りつつ、新規顧客を開拓する「二兎」戦略はこれから始まる。

松浦 大 東洋経済 記者

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まつうら ひろし / Hiroshi Matsuura

明治大学、同大学院を経て、2009年に入社。記者としてはいろいろ担当して、今はソフトウェアやサイバーセキュリティなどを担当(多分)。編集は『業界地図』がメイン。妻と娘、息子、オウムと暮らす。2020年に育休を約8カ月取った。

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